「カテゴリ」と「タグ」と「読者認識」①

「本格ミステリー宣言」を読んで、色々と思うことがある。


 まず、現状認識として私はおそらくクラスタの外側に居る人間で、だからこの著書の内容はほとんど入ってこなかったが、それは私個人の問題と括れないものであろうという点だ。原因は、この本がクラスタを前提に書かれた専門書であるからで、私に専門用語に冠する知識がないからだ。


 著者である島田先生は非常に噛み砕いて書かれていると思う、それでもなお内容が内容ゆえに噛み砕き切れなかったという感じだ。


 それほど、現状の推理モノ系統の作品群が抱える問題はフクザツで面倒だという話だということだね。


 私の観るところでは、世間は「刑事モノ」という明確なカテゴリジャンルをまず認識しており、これに入らない推理系をぜんぶ「ミステリー」に入れてしまうという雑な区分けをしているような気がする。


 つまり、「本格推理」や「本格ミステリー」や「探偵モノ」などなど、ぜんぶが単純に「刑事モノ以外」という括りだ。


 これをまずは「刑事モノ」の対としての「探偵モノ」で纏めるのは良策だと感じる。先生はそういうつもりで提言しているわけではないにしても。


 現状、刑事モノ以外の推理系の小説はタグが完全に死んでいるので、以前のタグを使用することは不可能な状況にあると思う。「本格」とか「ミステリー」とか「推理」とかは、形容詞ではなく修飾語に堕してしまったということをまず言いたい。


 今現在、起きてきている現実の問題は、タグの死亡により、各作品からのリンクが完全に途切れてしまっているという事情だろう。


 通常、読者が商品を探す際には、類似品を探って比較検討して購買に移るわけだが、現状のこのジャンルは巨大な闇鍋状態で、カテゴリが死んでいる。読者は例えばAという要素に興味を引かれてカテゴリAを探すわけだが、そのカテゴリは実は闇鍋で、AもBもCも、あらゆる要素が無整理の状態で突っ込まれている。

 妥協して手にしたそのAとは無関係な期待外れな作品で我慢してくれる場合もあるだろうが、通常は読者の購買意欲を削ぐケースに繋がるのが圧倒的だろう。


 つまり、探したいジャンルに辿り着けないという大問題が潜んでいる。


 カテゴリは、似た要素、読者が求める要素の類似を集めたモノなので、その意味で言うならばむしろ揶揄が飛び交う「なろうテンプレ」の方が戦略的には正しい。だから、現状、なろうテンプレ系の一人勝ち状態が出現している。

 中身はさほどでもないという意見が目立つのだが、事実はどうあれ、質よりも圧倒的に利便性がこの結果をもたらしたと見て良いと思う。


 個人商店の少ない品揃えより、大型店舗の豊富な品揃えが客足を圧倒してしまうのと同じ原理だ。現状、他のジャンルが抱える問題はもっと酷くて、喩えるなら客に直接で倉庫へ買い物に行かせるようなものだ。それで格安のオトク感があるならともかく……普通は、目の前の膨大な量と不親切さに辟易して何も手にせず帰るだけと思う。




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