戦争のリアルが途切れた世代
現在80歳以上のじーちゃんばーちゃんと親しく話せる立場の人だけなんだよね、リアルな戦争の記憶とギリギリ繋がっているのは。それも、うっすらと、というだけで頼りない限りだけど。
それ以外の人にとっては、もう戦争というものはどこまでいっても空想の産物でしかなくて、フィクションとしてしか捉えられない。昨日ぴんぴんしてた人が今日には居なくなっている、それが一人二人でなくものすごく大勢。あるいは昨日あった物が今日には灰になっている、一軒二軒じゃなく、見渡す限りで。そういうのを、想像ではなく現実として目にするって、経験したか、してないかの差は、たぶん雲泥。
東北震災の記憶だって、阪神淡路の記憶を持ってた人にはものすごく生々しいはず。たとえその現場に行ってなくても。だけど、両方ともニュースで観ただけの人には、おそらく空想の領域を出ることはない。どれだけ身震いしようが、泣こうが、それはどこまでも、想像。解った気になっているだけ。
私も戒めをもって、自分は知らないのだ、と肝に銘じようと思うのね。かろうじて繋がってはいても、それでリアルとフィクションの境目が見えるだけ、リアルの方を思い至ることなど不可能なのだ、と解るだけのことだ、って。
世界基準では、まだまだ戦争と繋がっている国ばかりの中で、日本は特異な状況になっていくと思う。空想でしか思い至れないものを、埋め合わせることは出来ないのかも知れないとさえ思っていて、なのにそれを勘違いしそうな人ばかりになっていくわけでしょう。
戦争に纏わる書籍やメディアを通して情報を入れたところで、映像で見る炎は熱くもなんともないんだよね。経験したことがない人には、永遠に、どう頑張ったところでそれを埋め合わせることは出来ない。幸か不幸か。
ジョジョシリーズの荒木先生が、仮面ライダーのあの悲観的精神性が理解出来ないと吐露されていたというのを聞いて、思い至ったの。断絶があるんだなぁ、て。先生も、もしかしたら同じことをモヤモヤと感じはったのかも知れない。
特にライダーは、仮託された物語だから、なおさら未知の読者には通じにくいものではあるのだよね。あれは、戦争の悲惨ってのを生々しく想像出来る者には、ベースにその記憶を繋げることで、ああいう荒唐無稽の設定を置いてもまだリアルな心情をシミュレートして想像が出来たわけで。自分の身体が機械にされてしまうということをリアルにシミュレーションしたら、気が狂うか、絶望するか、という回答になったわけですよな。そして、仮託であるということが、クッションにもなっていて、未だ重くのしかかっているモノを軽減してもいる、というか。
こう言っちゃなんだけど、今の人たちって、厳密なシミュレートで物語を読んだりしてないでしょ、と思っちゃった。類似の状況ですら、経験した人などほとんど居ないんだもんね。
東北震災の後、急に結婚ブームだか同棲ブームだかで、独りでいるのが嫌になったとかいう理由を聞くことが多くなった時期あったよね。あの震災は、テレビ越しでさえ、リアルの断片を突きつけてきたからだと思うけど。あのムーブメントを回想しても、やっぱ戦争を記憶として持っている世代と、持っていない世代の間の断層って、かなり広いんだろうなぁと思って。
ロボコップっていう洋画もさ、機械にされるという葛藤を描いている。リメイク版じゃなくて、オリジナル版ね。リメイクの方はそこ焦点から外された感じがあるから。
それも、おそらくは世代の差なんだろうなぁと思う。オリジナル版が出た頃は、まだ荒唐無稽は荒唐無稽と認識されていて、それははっきりと否定であったわけよ。人間がロボットにされる、それは否定されるべき忌まわしい行為、悪魔の所業。だから、荒唐無稽と言われるの。人類に良心があるかぎり、実現はない、ということで。人類の良心だよ? 設定を吟味してシミュレーションする中で、人類学相当のことまで計算に入れられる。ここでいうシミュレーションってその規模のことね。
今は普通に科学が追いついちゃって、ロボトミー手術とか実現圏内で、状況が変わったのよね。そうでない昔の漫画家の価値観と、今の漫画家の価値観にも断絶があるってことで、二重に乖離してる。
機械化の未来が近付いてきちゃうと、悪魔の所業ってほどもなかった、ということが知れたのだよね。だから、機械にされるという想像に関しては、感覚が多岐になった。それでも仮面ライダーに関しては、ベースにあるのは依然戦争であるから、想像の方向性としては最悪を想定したほうが先生の企図にも沿うと思うんだよね。うん。
若い世代ほど戦争が想像の外に遠ざかっているのかと思うのだけど、実は、震災でも起きればそれだけで往復ビンタをかまされるくらいには、まったく離れてなどいないんだよね。だけどさ、ほれ、知らないものは想像の余地にない、てコトだわ。
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