思い入れとリーダビリティ
最近の、「読みやすい」という言葉は描写が少なくサクサクと進展する文体を主に指している、と規定しまして。(もちろん少なすぎると逆に伝達不可を感じる)
この、ギリギリ意味が通じる範囲での略式記述の文章は、いわば大まかに流れを伝えているのみで、読者は伝わったと錯覚しているだけです。(詳細な情報まで必要となる絵という媒体に直そうと試みればすぐ判明します)
こないだまで「南総里見八犬伝のあらすじ」という有志の書かれたWeb文書を読んでいたんですが、ちょうどこれが、極力描写を省いて掻い摘んだ記述のみに押さえることによってリーダビリティを上げるという手法を取ったものでした。原本の八犬伝というのが非常に長い物語であるため、少しでも取っ付きやすくという工夫です。
さて、この略式記述の文体は、八犬伝紹介者の思惑通りの、非常な取っ付きやすさで本当にサクサクと、あの長すぎる物語を面白く読ませてくださいます。物語そのものの魅力は充分に伝わるのですが…
いかんせん、人物の魅力となると弱い。
ここにこの略式記述というものの弱点が露呈されてしまっています。感情移入するだけのユトリがない。まさしくジェットコースターがトップスピードでガンガン宙返りやら半ヒネリやらのウルトラCを繰り出していくのを楽しむばかりで、細かな魅力の方は置いてけぼりになるのですね。
物語が終わりに近付いて、ふと気付いたわけですよ。登場人物300人近いのに、これといって肩入れしたくなるキャラは居ないということに! 八犬士のうち誰が好きかな、とか考えだしたら居ないというね。キャラの区別が付かないという。
唯一、素藤という京都でならした山賊上がりの男が気に入ったのですが、これもカラクリがあり、完全に先入観、この男のモデルはどうやら酒呑童子の連れの茨木童子ではないかと思われ、これがあったせいで他より思い入れが出来やすい状態にあったと思われるわけです。原作作者の馬琴先生も彼にはちょっとエコヒイキですし。(笑
茨木童子は同時に四大妖怪の一人、大嶽丸である可能性もあるしねぇ。実在の人物が歪んで伝わってるみたいだね。蝦夷のアテルイは京都まで召し出されているから、そこから色々分岐してるのかもだ。朝廷が怖れた東北の雄、か。二人で投降した、てのが酒呑と茨木に重なるんだよなぁ。
余談は置いといて。
キャラとして立っている人物というのは、二通りの立たせ方があって、一つは人間的な複雑さを与えてリアルのような感覚で立たせる方法、もう一つはちょっと大袈裟な表現を重ねることで目立たせて、立っていると錯覚させる立たせ方があるですよ。
そんで、最近の読者側にはネジレがあって、お気に入りのキャラの為ならリーダビリティが下がる描写過多を受け入れるけど、一見の際には受け入れない、てのが。
これゆえに、オリジナル作品は描写を下げて記号的キャラを出し、それを二次創作が描写を加えて厚みを出す、というヘンテコな状態が出てきたように思います。
原作ラノベはスカスカ文体と揶揄され、しかしそれが二次創作の漫画化アニメ化の際にはしっかりと描写が加えられる、という現象ですな。同人界隈でも近しい事が起きてるようです。
これを生み出しているのが読者自身である、て事にあんま気付かれていない気がします。これ、先細りを促す典型的ビジネスモデルなんだけどね。大元の原本となるアイデアを生み出すフロアがどんどん貧弱になってくからね。それを加工して成型するフロアばかり肥大化、賞賛につながる、というのは悪しきサイクル。
今後、どうなるのかねぇ。政府介入で根源ファーストを打ち出してきてる中韓にも注目しておこうと思います。特に中国は海賊版が蔓延った時代に痛い目を見てきたわけで、今後の彼らの考え方には大注目。
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