清書してみないと解からんのね
えー、こないだから読んでる書き方本の、ラストの添削事例。解かるよーな、解からんよーな、なので添削したものを清書して載っけてみるわ。(添削箇所とその解説は載ってるものの、結果の清書原稿は載ってないのだった。もやもや。)
<添削前原文>
ルイ子は、冷水ポットの水中に沈めた備長炭から夥しく出てくる小さな気泡をじっと見つめている。気泡は、十センチほどの細い木炭の両端から次々と出てきてはゆらゆらと水の中を登っていき、やがてぽっかりと水面に浮かび上がった。
傍らで友人が、紀伊産のそれは他の安価な木炭に比べ硬質で内部の繊維が揃っていて、水道水の浄化にどんなに適しているかを力説している。
(中略)
独り暮らしのルイ子の部屋に、友人は備長炭を置いていった。
独りきりになった後も、面白くて仕方がないというようにルイ子は、木炭から次々に出てくる気泡を見つめる。ずっと見つめていると、いつしか自分も水中にいるような心地になった。たくさん出てくる気泡のうちの一つになって、水面めがけてゆらゆらと登ってゆくようだった。大体が飽きっぽくて、何をしても長続きした例のない質なのだが、一旦気に入ると、まるで憑かれたように飽かずに見つめる癖をもっていた。
(中略)
友人から備長炭を貰った翌日、ルイ子は勤め先を早退して、同じ友人に紹介された小平の歯医者を訪ねた。そこを訪ねるのは初めてのことで、小平も見知らぬ街だった。
小学生の遠足のように淡い好奇心で心を満たしながらルイ子は、人影もまばらな駅の建物を出て駅前広場のバスターミナルを横切ると、東側の舗道をそわそわと歩いていった。手には友人が書いて呉れた地図を持ち、よく晴れた空から吹いてくる春の風が、その紙切れの端をはためかしている。交差点の信号が赤になりかかりルイ子は今しも動き出しそうな車の前を、どたばたと転げるように駆けて行った。横断舗道から数軒先の薬屋の角を右へ曲がると、道幅が僅かに狭まって、静かな住宅街に出た。
(後略)
豊田葵『小平の歯医者』より抜粋(本著より引用)
<添削清書>
ルイ子は、ガラスポットの水に沈めた備長炭から出てくる小さな気泡を見つめる。気泡は、十センチほどの細い木炭からたえず吐き出されて水の中を登ってゆく。
傍らで友人が、紀伊産の木炭は他の安価なものに比べ硬質で内部の繊維が揃っていて、どんなに水道水の浄化に適しているかを力説している。
(中略)
独り暮らしのルイ子の部屋に、備長炭が残された。
一人になった後も、ルイ子は、気泡を見つめる。ずっと見つめていると、いつしか自分も水中にいるような心地になった。大体が飽きっぽくて、何をしても長続きした例がないのだが、一旦気に入ると、飽かずに見据える癖をもっていた。
(中略)
友人から備長炭を貰った翌日、ルイ子は勤め先を早退して、同じ友人に紹介された小平の歯医者を訪ねた。初めての医者で、小平も見知らぬ街だった。
小学生が遠足に出かけるような好奇心を抱いて、ルイ子は駅前の舗道を歩いていく。友人が書いてくれた地図を手にしている。よく晴れた空から吹いてくる春の風が、その紙切れの端をはためかす。紙に気をとられていると、交差点の信号が赤になりかかり、今にも動き出しそうな車の前を、ルイ子はどたどたと駆けて行った。横断歩道から数軒先の薬屋の角を曲がると、道幅がにわかに狭まって、静かな住宅街に出た。
(後略)
確かにすっきりしました。確かにね。…うーん、なんだろう、なんかなぁ。
これは、1995年刊行の『小説家になる!』という本です。どこをどう添削してそれにどんな解説が付いていたかはまぁ、機会があれば本を見てね、ということで。
なんだろう~~~~~、なんか、なんか…、逆にちょこっとイビツになった気がしない?(汗
もちろん、添削前がダメなのもはっきり解かるんだけどもさ~~~~。
ミキシングというか、リミックス版というか、著者が二人居るのがはっきり解かるじゃん、ていうか。感覚の違う文章が混じってんじゃん、というか。(だから、どっかからパクったアイデアはすぐバレるんだよともいう)
文章一文レベルでの構造が違う文章がところどころに混じるから、その違和感が滲んでいるよーな気がすごーくします。んーと、同じことなんだけど、私も添削してみよーと思います。
<自己添削>
ルイ子は、冷水ポットの中に沈めた備長炭から夥しく出てくる小さな気泡をじっと見つめている。ガラスのポットは透明で、細かな気泡が十センチほどの細長い木炭の両端から次々と出てきてはゆらゆらと水の中を登っていき、やがてぷくぷくと水面に浮かんでは消えた。
傍らで友人が、紀伊産のものが他の安価な木炭に比べ、硬質で、内部の繊維が揃っていてと、水道水の浄化にどんなに適しているかを力説している。
(中略)
ルイ子の部屋に、友人は備長炭を置いていった。
独りきりになった後も、面白くて仕方がないというようにルイ子は、木炭から次々に出てくる気泡を見つめる。ずっと見つめていると、いつしか自分も水中にいるような心地になった。たくさん出てくる気泡のうちの一つになって、水面めざしてゆらゆらと昇ってゆくようだった。大体が飽きっぽくて、何をしても長続きした試しのない人間なのだが、一旦気に入ると、まるで憑かれたように飽きずに見つめられもした。
(中略)
備長炭を貰った翌日、ルイ子は勤め先を早退して、同じ友人に紹介された小平の歯医者を訪ねた。そこを訪ねるのは初めてのことで、小平も見知らぬ街だった。
遠足に出る小学生のように淡い好奇心で心を満たしながら、人影もまばらな駅の建物を出た。駅前広場のバスターミナルを横切ると、くるりと回ってルイ子は東側の舗道をそわそわと歩いていった。手には友人が書いてくれた地図を持ち、よく晴れた空から吹いてくる春の風と、暖かな日差しを心地良く感じながら。
交差点の信号が赤になりかかり、ルイ子は今しも動き出しそうな車の前を、ばたばたと転げるように駆けて行った。横断歩道から数軒先の薬屋を右へ曲がると、道幅が僅かに狭まって、静かな住宅街に出た。
(後略)
この書き手さんは、少々クドい感じの読感が好みなのかなと思ったんで、そのままを残した。読み心地さえよかったら、シンプルでもクドくてもオッケーだと思うのだね。限りなくシンプルな方が良い、ということなら、箇条書き最強となってしまう。
ただ、この原文の文章はかなり捩れた文が多くって、その箇所が、添削すると表面化してしまうのが難儀ですなぁ。
「手には友人が書いてくれた地図を持ち、よく晴れた空から吹いてくる春の風が、」
こいつが難問。地図を持つという手元スポットと、晴れた空という遠景スポットを一文に押し込めるという力技だからして。(笑
「その紙切れの端をはためかしている。」の一文を、私はすっぽ抜いたけど、ぜんたいにフワフワノホホ~ンちょっと大袈裟、な感じの文体にこの一文は荒っぽくてそぐわないなという判断でした、ちなみ。そしたら、地図もって晴れた空で~、それからどした♪、みたいな感じになっちまいましたね~。落しどころが解かんなくなったの丸解かりの添削箇所になりました。(笑
余談だけど、この原文。端折りで誤魔化されているんで一見は解からないけど、添削したら、一文と一文の繋がりが、漫画のコマ割状態であることに気付くよ。カキワリ的で、動作がスムーズでない。そういうポイントって、マジで添削でもしないと気付かないわけで、普段はスルーして読んじゃうけどね。
私は雑な人間だからたいがいはスルーだけど、神経質な読み手ならこのカキワリ状態は気付いてしまうので注意ですだよ。
けどまぁ、気付かれなきゃ勝ち、というわけで細かいことはあんま気にしなくていいと思うんだけどね。
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