「― ― ― ― ― 」
以下未修正
「― ― ― ― ― 」
……才人が目を開くと、そこには一面の白があった。
「……ッ…… ……ここは、・・・・・・どこ、だ……?」
身体を起こすと激痛が走るので、仕方なく才人は首を巡らす。すると、外の景色が目に入った。
ガラス越しに見えたのは、一つしかない鮮やかな夕焼けに照らされた、十数階建てのビル。そしてそれに貼り付けられた、でかでかとした広告の看板が・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・えっ!?」
才人は歯を食いしばり、無理矢理身体を叩き起こして窓に食らい付く。真っ黒のアスファルト。歩道橋。車。信号。人。誰にとっても当たり前なその光景に、才人は驚きで声が出ない。
辺りも見回し、才人は認識する。
ここは、地球の病院だ。
・・・・・・帰ってきた、のか? なんで? どうやって?
そもそも自分は死んだはずだ。クロケットを担ぎ風石の核に突っ込んで、跡形も無く消滅したはずなのだ。
俺は生きてる。・・・・・・じゃあ・・・・・・、!!!
才人は気付く。まずい。自分が死ななければリーヴスラシルの能力は発動せず、ルイズは助からない。ブリミルは確かにそう言ったのだ!
早く、早く俺が死ななくちゃルイズが・・・・・・ッ!!
焦った才人はベッドの脇にあった果物用のナイフに気付くと逆手に取った。すぐさま包帯だらけの胸に押し付け、一呼吸と共に覚悟を決めて歯を食いしばる。
……しかし、ひと思いに突き入れようとする寸前、才人はハッと気付かされた。
「・・・・・・何やってんだよ、俺ッ・・・・・・!!」
自分の心臓をこの世から完全に消滅させることで、リーヴスラシルの効果は完成するのだ。胸を突いて命を絶つことに意味はなく、もしやるのならばどこかの焼却炉にでも身を投じなければならないのだ。
「落ち着け、俺。落ち着けッ・・・・・・!」
ナイフを床に叩きつけ、震える声を抑えつけながら必死に言い聞かせる。しかし驚愕は、混乱は止まらない。ふと胸元に当てた手のひら。その感触に才人は愕然とする。
「・・・・・・ッ!?」
解くのももどかしく包帯を引きちぎり、恐る恐る手を当ててみる。
・・・・・・リーヴスラシルの刻印は、その胸にはもう存在しなかった。
どういう事だ? ・・・・・・ルイズは、助かったのか?
前にアルビオンで死にかけ、ガンダールヴのルーンが離れたことを才人は思い出した。しかし今回はあのときのように、ルーンが自分を見限ったという可能性は限りなく低い。リーブスラシルとは、死ぬことによって効果を発揮するルーンなのだから。
しかし、実際に胸のルーンが綺麗さっぱり消えているのもまた事実である。
……これが使い魔としての役目を果たしたからか、はたまたその主たる“担い手”の命が燃え尽きてしまったからか。それを知る術を、才人は持たない。ただ、ただ、愛する少女が生きていることを祈ることしか、できない。
「・・・・・・」
才人は黙考する。自分が風石に突っ込んだ後に「何か」が起こったのは明白だ。現に、自分はいまこの地球に呼び戻されているのだから。
才人は拳を握り、開く。目覚めてばかりの身体の反応は鈍く、思うように動いてくれない。
この感覚には覚えがあった。そう、アルビオンで死にかけて、ティファニアの水の宝石で治してもらった時と同じ、もしくはそれ以上。
・・・・・・もしいま自らの命を絶ったとしても、もう間に合わないだろう・・・・・・
ただルイズが助かってくれていることを、祈ることしかできないことに才人は歯噛みする。
「・・・・・・そうだ、デルフは!?」
相談できる相手を思い出し、才人はベッドを見回す。・・・・・・だが、無い。刃がボロボロに欠け、真ん中から折れた日本刀の姿が見当たらない。
「・・・・・・やっぱり、いねえのか・・・・・・」
あれだけの爆発だ、ひび割れたあの刀身が残っている訳がない。
・・・・・・生き残っちまったのか、俺だけ・・・・・・。
俺があれだけ動けたのは、あいつが支えてくれたからだってのに・・・・・・。
悲しい、けど涙が出てくれない。一度死んだと思ってたら生き返ってきたからだろうか、どうしても実感が湧かない。
愛する恋人は無事か、命を懸けて守ろうとした世界はどうなったのだろうか?
手元に無い戦友は、本当に死んでしまったのだろうか?
不安は漠然とたゆたい、胸を覆う喪失感はしっくり来てくれない。やりきれない感情に才人が呆然としていると、何の前触れもなく開かれたドアが開かれた。
ガチャ。
才人は咄嗟に身構えた。ここが地球だと分かっていても、ハルケギニアでの経験が身体に警戒を促した。条件反射だった。
・・・・・・しかし、現れたその女性を見た瞬間、才人の涙は止まらなくなった。
それは相手も同じだった。驚愕に大きく見開いた瞳から溢れる涙は留まることを知らず、目尻から流れ続けている。
年の頃は40ほど。最後に見た半年前と比べればそこまでやつれてはいないが、それでもその頬に薄く入るしわは、彼女が並々ならぬ気苦労をしてきたことを物語る。
どれだけ迷惑をかけたのだろう。
どれだけ、心配させたのだろう。
「才人ッ!!」
女性は駆け寄り、才人を抱き締めた。その腕は震えている。抱きしめる力は強く、そして何よりも温かい。
地球に帰って来たこと。ハルケギニアの現状。ルイズの安否。握り締めていたはずのデルフリンガーの行方。それら全てが、感情の濁流に押し流される。本能的に与えられた安心感が、才人の頭から考える力を根こそぎ奪っていく。
「ううッ・・・・・・、ううううッ・・・・・・」
「・・・・・・母、ちゃん・・・・・・」
混乱の渦が全てを呑み込んでいく。すすり泣く母親にされるがまま、才人は呆けて虚空を仰ぐことしか出来なかった。
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