1ー6話
数分、僕は歩き続けた。
何に向かっているのか、ただ、彼女が向かった道をただ歩いているだけ。
東一の家に向かった彼女、僕は東一の家を知らない、どこにあるのか、どんな家なのかも。
たどり着くことさえない物に向かっているのか……僕は僕の体に問いかけたい、僕は何に向かっているのか。
そうこうしているうちに人混みが見えてきた。
その人混みは「カンカン」と電車が通ることを伝える音に忠実に従っている。踏切のバーの前で電車が通るのをただ待っている……しかし。
その人混みは異様な空気と異様な会話に包まれていた。
「おい! 危ないぞ!」
野太い声でそう聞こえてきた。それも、必死な、血相な言い方に聞こえる。
僕の視界にはまだ、その男の人が何に対して、誰に対して言っているのかわからない、それが、踏切の外に対して行っているのか、あるいは……中に入っているのか……。
「早く出ておいで!」
「来るぞ!!」
人が見から次々に声が飛んでいる。
僕の足はその踏切に近づいていく。
よく聞くと、声に混じってスマホのカメラの音も聞こえる。
若い人、学生が小声で何か話している。
「これヤベーよな、このままじゃミンチだぜ、あの人」
「俺、もしひかれたら初物だぜ、人が目の前で死ぬの」
僕はその言葉で最初に聞こえた男の言っている人、人混みから飛ぶ声が誰に言っているのか。
自然と足が速くなる。何十人といる人混みの中に突っ込む。
わずかな隙間に体を捻じ込ませる。
体に当たった人から浴びせられる声も気にかからないほど、僕の感情はおそらく今踏切の中にいる人に向いている。
僕はなぜこんなにも必死になって人混みをかき分けているのだろうか? 意思と関係なく進む感情、その感情に支配されている体、頭が必死に身体中に信号を送っている。速く進め! 速く迎え! 速く前に行け!
そして、踏切のバーの前まであとわずか、人の隙間から黄色と黒のバーが見えた。人混みの隙間から僅かな光と線路内の光景がみえる。その光景と摑み取るかのように、僕の手はバーの前にいる人の間に手を伸ばしてかき分けた。
一瞬視界が白くなる。ざわついた人混み、踏切の鐘の音、今の状況を頭がコンマ数秒で整理する。
踏切内の光景がはっきりしてきた。耳につんざく鐘の音、ざわついた人混みから数人の警告をする声。
僕は見た……線路に立っている人……。
制服に身を包み、腰まで伸びた長い髪の毛、スラリとした体、そして、空を見上げた横顔から落ちるひとすじの涙。
僕はこの瞬間、今までかやの外に放り出された自分自身の感情が一瞬にして戻った。
胸が引き裂かれる。脳が収縮した感覚。
今まで味わったことのない感覚が身体中に広がった。
「……おい……どうして……か、かお」
「おい! 来るぞ!!!!!!」
「早く出ろ!!!!!!」
ーフォーン
あと数メートル、電車が踏切の中にいる人物を跳ねるまで。
あの時、君が泣いていた理由を僕は知っている。だから僕は君の手を引かなければならない。 松崎流 @matuzaki_ryuu
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