第31話 幼ごころの君

 皆さま、いつも ありがとうございます。


 いただいたリクエストも、のこり二つ。

 大切に、大切にお答えしていこうと思います。


 今回のお題は、怖い話。あるいは不思議な話。


 ええと。

 わたくし、霊感が皆無らしくてですね。

 心霊体験をしたことがございません。

 夜道が怖くて、逆に自分が怖い存在になろうと思って不気味な笑みを車や通行人に向けていたという痛い体験談くらいしか……。


 ご期待にそえず、申し訳ない!!


 ただ、ひとつだけ。

 思いだした不思議な体験はあります。

 これはエッセイなので、フィクションは書けません。

 少なくとも、私にとっては現実に体験したお話です。


 あれは小学二年生のころだったと思います。

 すさまじく怖い映画をテレビ放送で見ました。


 ある街に引っ越してきた一家が庭でくつろいでいたところ、大通りに歩き出した幼い末っ子がトラックに轢かれて亡くなってしまいました。悲しみにくれた両親は、街の禁忌を犯します。

 決して誰も埋葬してはならない墓地に、末っ子を埋葬したのです。


 ──詳細は忘れました。

 ──映画の題も憶えていません。

 ──ただ、なんか、キングっぽいんだよなあ。


 そして末っ子は甦り、家族に襲いかかります。母親を殺してしまうのです。父親は、母親をも墓地に埋葬します。そして、自らも襲われて亡くなります。

 ただひとり、娘だけが隣人に保護されて生き残ります。


 このホラーが、滅茶苦茶に怖いのです。

 幼子がナイフを持って近づいてくる。あどけない笑みで、襲いくる。

 わたくし、目がギンギンにさえて眠れなくなりました。

 論理的でない恐怖感。

 うちにアレが来るはずがない。

 しかし、夜の闇の中から異形の者が現れそうで、恐ろしい。


 うちの妹、2歳なんだけど。

 めっちゃ、あの子と被るんだけど。

 いやいやいやいや。

 まっさか。

 妹、死んでないし。

 埋葬もしてないし。

 ていうか、ここ日本だし。

 現実だし。


 それでも恐怖から抜け出せません。


 もういやだ。

 こんな怖いのいやだ。

 誰か助けて。


 恐慌状態です。

 こうなると、もう、理性なんてものは働きません。


 そのときでした。


 部屋の壁際が白く輝きだしたのです。


 不思議と恐怖は感じません。


 じっと見つめると、ぼんやり人影が見えました。


 長い、長い髪。


 真っ白な姿。


 人影から、耳にではなく頭に声が届きます。


「大丈夫。あれは、ここには出てこられないから。大丈夫ですよ」


 そう聞こえました。


 そして、しばらく光りつづけたあと、ゆっくりと消えていきました。


 どうしてでしょう。

 私はひどく安心したのです。


 そして、思いました。


 ──幼ごころの君だ!


 そうです。

 ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』。

 ファンタージェンの女王にして、物語を統べるもの。

 物語のはじまりたる存在。


 私は彼女を、そうだと思いました。

 幼ごころの君が来てくれた。

 物語世界を統治する彼女が、大丈夫だと言ってくれた。

 だから、絶対、大丈夫。


 とても幸せな気持ちになり、私は安らかに眠りにつくことが出来ました。


 ちょっと残念なのは、彼女には誰でも一度しか会えないということ。

 私は2度と、幼ごころの君には会えないのです。

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