第14話 光の帝国 マグリット
明るい真昼の空。
澄んだ青空に浮かぶ、いくつもの白い雲。
初夏の爽やかな空気を想起させる、綺麗な空だ。
木立の中には家が建つ。
窓には煌々と灯りがともり、あたたかな晩餐の最中だろうかと思わせる。
──晩餐?
そうである。
家の周囲の林は暗く、夜の闇を抱えているのだ。
ぽつんと佇む街灯も、夜を照らしている。
ルネ・フランソワ・ギスラン・マグリット。
ベルギーに生まれた画家です。
1898年にベルギー西部のレシーヌで生まれました。
1912年に母が謎の入水自殺を遂げ、少年マグリットは衝撃を受けます。
その4年後、ブリュッセルの美術学校に入学。
やがて生活費を得るためにグラフィックデザインや広告ポスターの仕事をこなします。彼の絵画にある端正で整然としたラインは、その名残にも思えます。
1922年。幼馴染みのジョルジェット・ベルジェと結婚。彼女と再会したとき、彼は生涯に何度もない大声で叫んだといいます。
「ワーッ、ジョルジェットぉ!」
以後、彼女は夫の作品のモデルを数多くつとめました。
その数年後。
ジョルジョ・デ・キリコの『愛の歌』の複製画を見た彼は、「涙を抑えることができない」ほどの感銘を受け、シュルレアリスムの道へと進むのです。
シュルレアリスム。
日本語では、超現実主義、と訳されています。
現実的でなく、どこか夢幻的であるのに、描かれる素材は何の変哲もない。
その独特の世界は、夢の中を覗き見るかのよう。
冒頭、ご紹介した絵画は、『光の帝国』といいます。
空、森林、家、街灯。
それぞれは何の不思議もない。
しかし、その時間をそれぞれ動かすことによって、ずれた時空の夢幻的世界を創りだす。
ルネ・マグリット。
彼は、ごくごく普通の生活をし、台所の片隅をアトリエとして制作をこなすような紳士であったといいます。絵具で服や床を汚すこともなく、整然と絵を描いた画家。紳士服で仕事をした画家。
家族を愛し、ルルというポメラニアンを大切にし、絵の説明をすることを嫌った画家。
彼の作品には、「びっくり」をこよなく愛する悪戯っ子の精神が見え隠れするようです。
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