第10話 感動の再開(嬉しいとは言ってない)
テオバ・ルロイデン。ブリュン・グラーネ帝国の貴族、ルロイデン公爵の一人息子だったっけ・・・。
旦那様は侯爵だから家の格としてはルロイデン家はツェルスト家よりも上。
うん我がまま坊ちゃんって顔してる。性格はジャ〇アンとス〇夫を足して体型は二人を平均化させた感じだ。
「ど、どうして・・・・」
俺はルノア様を覆い隠すようにテオバの前に立つ。
せめて俺を盾に出来ればよかった。コイツがルノア様を苦しめる心に刺さった杭だから。
「なぁおい裏切者よぉ、なんでこんな所にいるんだ?ここは裏切者が来るようなところじゃねぇんだがなぁ?」
どんどんとテオバの野郎がルノア様に近づく。だが俺は微塵も動き気はない。
ルノア様に突っかかるならもっぺん投げ飛ばされるか?あ?
「おい、お前邪魔だよ・・・どけよ・・・・って、えっ!?な、なんでお前がこんな所にいるんだ!?お前は死刑にしたはずじゃ・・・」
ん?この反応からして、俺が本当は死刑じゃなかったってことを知らないのか・・・。
まぁいいや。それ以上近づくんなら投げ飛ばすまでだ。
俺とテオバでにらみ合いが続く。永遠に続くかと思われた時は一人の少女が絶ちきった。
「あ、あの~テオバ様?一体どうなされたのですか?そちらの方はどちらで?」
「うるさいっ、カーヤは黙っていろ!」
カーヤと呼ばれた少女。俺と似たようなメイド服を着ているが歳はテオバと変わらないように見える。
「よぉテオバ坊ちゃま。ご機嫌いかがです?いつぞやは臭い豚小屋までご足労いただきまして」
「なんでお前が生きているかは知らないが、また俺のことを投げ飛ばして見ろ、今度こそお前を死刑にしてやるからな」
「自分では何も出来ない奴ほど自分を大きく見せようとするんですよねぇ。あぁ嫌だ嫌だ。俺が殺す、ぐらいのこと言ってみろやお坊ちゃん」
図星かどうかは知らないがテオバが怯んだ。
場を呑んだ!このまま・・・・。
「ちょっと!どこの誰だか知りませんがテオバ様はそんな酷いことは言いません!次期ルロイデン家当主様なのですよ!」
カーヤが男の戦いに突っかかって来た。
酷いことって・・・、いやここのガキ共がルノア様にした事を俺は一日だって忘れたことは無い。
「酷いこととおっしゃいますが、ではテオバお坊ちゃんがルノア様に何をしたのかあなたは理解しているので?」
幼女メイドは俺の眼光に怯えるが、その目は俺を離さない。お坊ちゃんよりは肝っ玉が据わっているな。
「そ、それは存じ上げませんがテオバ様は高名な魔法使いの先生を師事して真面目に勉強を頑張っているんです!」
「ではルノア様にあなたの信じるテオバ様が何をしたのか教えて差し上げましょうか?」
カーヤが頷き俺が言葉を発しようとしたとき、テオバが割って入った。
「わーわーわー!カ、カーヤ!こんな人達の相手をする必要はない。あっちで読書でもしよう!」
「は、はぁテオバ様が仰るなら・・・」
カーヤの背中を押すテオバがルノア様から一番離れた席に座った。
「ふぅ・・・。あ、あの・・・ルノア様・・・」
ルノア様は俯いていた。ヴァラスクジャルブに着いた時の明るかったルノア様の姿はすっかり隠れてしまっていた。
幸いとも言えばいいのかまだ四組のクラスにはルノア様とテオバの野郎の二組しかいない。さっきのやり取りを見られていなければ、まだルノア様も楽しくやっていけるんじゃないだろか。
「ルノア様・・・・」
やり過ぎた、か・・・。流石に
「その・・・なんというか・・・・」
かける言葉が見つからない。ルノア様のそんな姿は二度と見たくなかった。それなのに俺は・・・。
静かなクラスの中、如何ともしがたい重い空気が満ちる。
「うっわ辛気臭っ!これだから帝国の連中は・・・」
豪快に扉を開けて入って来た。しかも開口一番これか。
クラスの中に入って来たのは赤毛を短く切りそろえた少女と、白っぽい長髪に褐色の肌の耳が長い女性。
赤い方がきっと生徒で耳の長い方が従者ってところだろう。
「お嬢様、そういう心に思った事を平然と口に出すからお友達が出来ないと前々からラーリシッタが言っていたのを覚えていますか?」
「メラルメン家の女は細かいことは気にしないんだ!それで・・・これは適当に座ってりゃいいのか?」
赤毛の娘がクラス内を見回す。俺は彼女の視線がこちらを向いたときに頭を下げた。すると向こうのラーリシッタとかいうメイドも頭を下げた。
「よし!」
赤毛の娘がこちらに近づいてくる。そしてルノア様の隣の席に座った。
「あたしフィオーラ・メラルメン!これからよろしく!」
「ルノア、ツェルスト・・・です・・・メラルメンさん・・・・」
明るいフィオーラ様がルノア様に自己紹介をした。ルノア様も小さな声で返す。
「あたしはフィオでいいよ!えっとツェルストさん?」
「えっと・・・私も名前だけで、いい、です・・・フィオちゃん」
あ、話しかけられてちょっと嬉しそうだ・・・。
少しだけ嬉しそうに話すルノア様の姿に俺もほっとした。
「ウチのお嬢様がいきなり話しかけたりして、申し訳ありません・・・」
「いえ、そんなっ!ウチの方も人見知り気味だったので・・・ルノア様にお友達が出来たみたいで安心しました」
俺がそう言うとリーラシッタさんはくすっと笑った。
しかしこの人の格好・・・、露出が激しいな・・・ミニスカートに胸もあんなに出してるし・・・。色々サービスし過ぎだな。
「私、メラルメン家で奉公させていただいているリーラシッタと申します」
「あたしはツェルスト家のサシャです。よろしくお願いします!」
俺は思いっきり頭を下げる。するとリーラシッタさんはまた笑った。
「帝国の方はみなさん礼儀正しいんですね・・・お嬢様にも少しは見習ってほしいものです」
「そんなっ、少なくともあたしが礼儀正しいなんてことは間違っても無いですよ!?」
クラスの隅でテオバが頷いたのが見えた。
殴ってやろうかあのガキャ・・・。
「メラルメン家っていうと・・・」
「ハールキース海に面したターリア半島を治めるターリア王国の貴族家です。半島の情勢は複雑ですから帝国の方だと細かくは分からないのかも知れませんね」
「すみません・・・勉強不足で・・・・」
ツェルストも帝国かって言われると微妙なんじゃないっけ?まぁそれはお互い様か。
「そういえば、リーラシッタさんの耳は長いですよね。それもターリア半島の何かで?」
「あぁ、これは私は人族ではなくてダークエルフ族なので。ターリア半島の何かと言う物・・・でもないと思いますね」
ダークエルフ・・・ファンタジーだなぁ。
クラス内の席が全部埋まった。従者はクラスの後ろにいるように言われたのでクラスの後ろからルノア様を見守る。
教壇に立つのは黒いローブを着た眼鏡の女の先生だった。
「全員出席していますね。それでは今日の予定を説明しますよ。まずこのホームルームが終わったら講堂で入学式を行います。移動は一組からなので、少し待つことになるかもしれませんね。入学式が終わったらばショートホームルームになります。これは明日の説明をして終わりますから。そしたら放課となります。あっ言い忘れてました。私が一年間、君達の担任のヴィオニー・アラスターです。よろしくね」
ふむ、優しそうな先生だな。安心安心。
ヴィオニー先生が出席簿を閉じて教卓に置いて、廊下の方を見に行く。
「今年は進行が良いんですねぇ。四組のみなさん、廊下に出てください。講堂に移動しますよ。出席順に並んでくださいね」
廊下をちらっと覗く。
おぉ貴族のボンボン達が素直に並んでる・・・・。
「はーい、それじゃあ講堂に行きますよ。付いてきてください。従者の方々も付いてきてください」
ヴィオニー先生に言われて後ろにいた俺達も生徒の列に付いて行く。
なんだ、道順覚えなくてもよかったのか。
校舎と講堂はまでは少しだけ離れている。その道中、自然と校舎を見て回るような感じになった。
何に使うか分からない部屋ばっかりだな・・・骨ばっかりとか、変な札ばっかりの部屋とか。大丈夫なのか・・・?
「図書室、ですか。凄いですね・・・・」
隣で歩いていたリーラシッタが独り言のように呟いた。
「確かに大きいですね・・・屋敷にあったのなんて大したことなかったみたい・・・」
何しろ扉がまずデカい。そして見張りの警備員がいる。普通に門だよこれ。
「こんなに何の本を置いてるんだか・・・」
「魔道書らしいですが、魔道書って確か金塊一つ分って言いますから・・・凄い価値のある部屋だけに見張りもいるんでしょうね・・・・」
リーラシッタの言葉のせいで、従者のほとんどが図書室を見ていた。
「「へー」」
従者の感覚は万国共通らしかった。
校舎も図書室も大きければ講堂だって大きいのである。
「私がっ!このっ!国立魔法科学院、最高理事長兼校長のっ!ヴァラスクジャルブ連邦永久大統領ビルギッタ・アホライネンだっ!未来ある若者よ!まずは君達を歓迎させてほしい!ようこそヴァラスクジャルブへ!そして入学おめでとう!
君達に贈られたバッジは錬金術によって作られた魔性金属で魔力を与え続けないと鉄くずになってしまう!ここに居られる君達はここに入学する資格は充分だ!」
ずいぶんとテンションが高いというか・・・。
「学ぶ意欲がある者には惜しみなく支援をしよう!この学院には君達の願望を満たすに充分な知識がある、知恵がある!ここで学ぶ四年間、それが君達の人生の輝かしい四年間になることを望んで理事兼校長兼大統領としての挨拶を終える。」
肩書付き過ぎだよ・・・。
「あ、そうそう。私事で非常に恐縮だが、私は非常に忙しいのだがこの日は式の最後までいることにしているんだ。よってこの前もって渡された進行表」
魔女王は白い紙を取り出した。あれが進行表ってことなんだろう。
それを魔女王ビルギッタはびりびりに引き裂いた。
「君達もこんな長い話を聞く為に学院に来た訳じゃない。よって後は君達のやる気を聞いて式を終わらせよう。理事長権限でな!」
あ、進行の先生が困ってる・・・。
しばらくして新入生代表らしい生徒が壇上に上がった。
ここからじゃ顔までは見えないか。
代表になった生徒は持っていた原文を、同じようにびりびりに引き裂いた。
「僕達はこの学院を使い潰してでも貪欲に魔法を学び、後世にまで名を残す魔法使いになることを、魔女王ビルギッタ。御身に誓う。新入生代表エリオネル・グレゴリー」
「ほぉ、良い目をしているな。気に入った!」
ビルギッタが指を鳴らすと何もない空中からバラの花吹雪が溢れ出た。
魔法ってこんなんも出来るんだなー。
花弁一片を手に載せると魔法のバラはすぐさま溶けて消える。
「さぁ学べよ魔道を行く後輩達!お前達の前にいる魔道の極を超えて見せろよ?」
新入生がしきりに手を叩く。講堂の中で音が反響し、万雷の拍手になるのは大して時間もかからなかった。
この熱狂の中、ルノア様は何を想われているんだろうか。願わくばルノア様の学院生活が実り多き明るい日々になりますように。
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