第2章 ヴァラスクジャルブ留学編

第9話 メイド、留学について行く

 石畳を歩くたびにカツカツと小気味のいい音がなる。

 周囲の雑踏も混ざってちょっとした曲のようにも聞こえる・・・なんてのはちょっとクサいかな。

「サシャ?どうかしましたか?」

 俺の前を歩くルノア様が後ろを振り向く。

「いえ、なんでもないですよ」

 ルノア様と俺はこの人混みの中で離れない様に手を繋いでいる。そうでもしないと途端に離れ離れになってしまいそうな人混みの中に俺達はいる。

「それよりも凄い人ですね・・・ヴァランシの商店通りが全然大したことなく見えますよ・・・・」

「それはもう、ここは学徒の集う、知の最先端ですから!」

 そう言うルノア様の胸には一つのバッジが輝いている。

 そのバッジはこの場所にいる資格を示す物だ。

 このバッジが屋敷に届いた時のルノア様の表情ったら・・・俺がメイドになって初めて見るほど可愛かった!もうねメイドって役得過ぎだろって鼻血噴いたもん。

「ヴァラスクジャルブ連邦の国立魔法科学院は世界で最も権威のある学校なんですよ!そんな憧れの場所に私は居られるなんて・・・」

 稀に見るテンションの上がりぶりだな!そんなルノア様も可愛いよ!

 完全にお上りさんになったルノア様が迷わない様にしっかり手を握り込む。

 おっほ柔らか。

 ここで、流石に通行の邪魔になりかけているので人の列から離れる。

「入学式は明日、今日は学生寮に向かうんですよね・・・・地図地図っと・・・」

 カバンから地図を取り出して広げる。これもバッジと一緒に届いた。これも魔道具らしくてルノア様が入寮する寮の位置が表示される。

 ふむ・・・ここが大通りで、あっちが商店街だろ?それで向こうが・・・・。

「っ!」

 俺は後ろを振り向く。すると通行人の男が驚いたような顔をした。

「えっと・・・すいません・・・・」

「こちらこそ、お嬢さん。では」

 男は小さく会釈してまたどこかに歩いて行った。

 またやってしまった・・・・。

「サシャ?どうかしたんですか?最近ずいぶんと後ろを気にしていますよね?」

「いや!ほんとに何でもないですから!イケメンが近くにいたから反応しちゃうんですかね!?」

 無理にでも笑え俺。ルノア様に余計な心配をさせるな。

「いけめん・・・?ま、まぁサシャが大丈夫と言うならこれ以上は聞きませんが・・・大変なことだったら言ってくださいね?」

「はい、もちろんです!あ、そうだルノア様。この大通りを真っすぐ行って橋を渡って右に行った所に寮があるみたいですよ」

 俺は地図の上、これから行くルートを指でなぞる。

 ルノア様はそのルートを眺めて頷いた。

「それじゃ行きましょうかルノア様!部屋にキッチンとかあればいいですね!そしたらお菓子とか作れるんですが」

「ふふ、サシャのアップルパイはとても美味しいですからね。また食べたいです」

 寮・・・カセットボンベ・・・、いやないない。




 事の始めは一か月前に遡る。

 ハルザスから沢山の賠償金を貰った旦那様は賠償金の大半をルノア様の国立魔法科学院の入学費に使用。

 このお金のおかげでルノア様はこの学校に入ることが出来たのだった。

 入学にお金がいるのはどこでも同じなんだなと、世界の暗部を覗いたところで、残りのお金で新しいメイドを雇うことになる。これには俺も驚いたが、俺はルノア様に付いて魔法科学院に。新しいメイドさんは屋敷に残って俺の仕事を引き継ぐことになった。

 そいで新しいメイドさんに俺は驚いた。新しいメイドさんっていうのが戦勝パーティーでお手伝いしてくれたローザさんだったからだ。

 あぁ男の人を捕まえられなかったんだな、と思いつつ俺はローザさんに仕事を教えて屋敷を出た、という具合だ。

 俺の部屋だった屋根裏部屋・・・微妙に愛着が沸いていたのだが寝るぐらいにしか使わなかったので惜しくも何ともなくローザさんに譲り渡した。きっと今後も独り寝にしか使われない部屋だろう。

 なんでローザさん結婚出来ないんだろうね、綺麗な人なのに。仕事もまぁ・・・うん。旦那様は細かいことは気にしないからな、大丈夫でしょう。クレームとか来ないよね?




「ヴァラスクジャルブ連邦は魔法使い、魔女達が勝手に支配していた都市を魔女王ビルギッタ・アホライネンが都市国家を纏めて現在の国家体制になったんです。そもそも魔女王ビルギッタは貴族でもなんでもなくてただの魔女の一人だったのですがヴァラスクジャルブ連邦が出来た時に帝国が連邦を認め魔法技術を優先的に開示するのが条件で皇族から一人が魔女王に婿入りして初めて皇族の分家のアホライネン家が出来たんです。現在でも帝国と連邦は友好的で・・・・」

 なにこれ、なんで俺歴史の授業受けてんだろ。ヴァラスクジャルブ?カタカナ多くない?


 ルノア様の新居たる学生寮の一室。荷物は前もって第四中隊の連中が運び込んでいたので後はルノア様を連れてくるだけだった。

 内装は見事な物でルノア様の寝室になんと俺の分の寝室まであった。さらに寮の部屋には風呂とキッチンが付いていた。しかもキッチンには冷蔵庫みたいな魔道具まであり、これは流石魔法だけで成り立ってるヴァラスクジャルブ連邦と言った所。

 この冷蔵庫、もしかしたら料理の幅が広がるかも!いやぁ魚が食いたくなるのが日本人の心だよなぁ。刺身とか食べたいなぁ・・・・。

「ちょっと!聞いてるんですかサシャ!それで魔女王ビリギッタの作り上げた魔法体系について・・・」

 ここに来てからテンションが限界突破してるな・・・可愛いからいいけど!

「ルノア様はその・・・魔女王さん?に憧れを持ってるんですね!」

 なんだろ・・・プロ野球選手に憧れる男の子みたいで微笑ましいなぁ。

「当然です!連邦が出来てから百年。まだまだ現役で研究を続けて、本も沢山書いているんです!彼女の研究テーマである生命についても彼女の人生から・・・・」

 何言ってるか全くわからないけど可愛いからいいか。あれだけ喋れば喉乾くよね。紅茶でも入れようか・・・。

 俺は備え付けの椅子から立ち上がって、第四中隊が予め入れておいたであろうティーセットを取り出す。

 お、ここ水道があるんだ・・・水汲みもしなくていいのかー。あらっこのツマミを捻るだけで火が出る・・・。なんだか既視感があるのは気にしないようにしよ・・・・。




 ルノア様がマシンガントークを繰り広げているうちにいつの間にか夜になり、そのルノア様も喋りつかれて夕飯を食べたらすぐに眠ってしまった。

 まぁ明日は早くに出発しなければいけないから良い事なのかもしれないな。

「さて・・・」

 俺はカバンから地図を取り出してテーブルの上に広げる。

 寮はここ。入学式は魔法科学院の講堂でやるらしいから学校の位置と講堂の位置はっと・・・。

 俺は地図を指でなぞりながら確認する。

「寮を出て左に曲がって・・・真っすぐ行くと学校があって・・・」

 お、これ拡大表示もしてくれるんだ・・・。魔法って便利だねぇ・・・。

 学校の敷地内も拡大表示されて校門から入って校舎があって右に行くとグラウンド、左は・・・研究室?なんか大学みたいだな。

「それで講堂はっと・・・お、あったあった。結構校舎から離れてるんだな。ふぅむ・・・何時に寮を出るか・・・・」

 今日のあの人混みからして朝から混むのは自明の理。入学式は八時から。校門が開くのは六時から。すると・・・五時にルノア様を起こして準備をするか・・・?と、すると朝食を作るのはもっと早くにしないといけないよね。ってことは俺は四時起きになるか・・・・。

「よし・・・!」

 俺は一度後ろを振り返る。そして一回溜め息。

 寝よう。





 朝の六時前、それでもかなりの人数が並んでいた。

 俺のような使用人と貴族の子女の方々。早起きが仕様の俺達は誰に見られてもいいようにピンと背筋を張って立っているのと対照的に貴族のボンボン達は眠そうだ。

「ルノア様、大丈夫ですか?寒くありませんか?朝は冷えますから・・・・」

 ルノア様には風邪をひかせないようにいつもより厚着をしてもらって、その上にコートを着せた。

「大丈夫。とっても暖かいですよ。ありがとう」

 あぁその顔だけで俺の心も温かいよぉ。


「あ、門が開きましたよ」

 ルノア様がそう言うので校門を見ると、門番の人がやりにくそうに門を開ける姿が見えた。

 門が開ききった瞬間に人の波が動き始める。俺はルノア様と離れないようにしっかり手を繋いで歩いて行く。

 地図の通りに門の先には大きな校舎があった。

「ほえー、デカいなー」

 見上げるほど大きな校舎は四階建てで染み一つ無いと思えるほどに白い。


 そのまま流れていくと校舎の中に入っていった。だが入り口にクラス分けの表示があったようで流れが止まった。

 ルノア様がクラス分けを見ようと必死に背伸びをするが、周りの背が高いせいか全然見える気配が無い。

 後ろの連中もクラス分けが見たいと前に前に、と押し出してきてクラス分けが見える位置まで来てしまった。

 俺は必死にルノア様の名前を探す。そうでないと・・・ルノア様が潰される!

 探せ・・・探すんだ!ルノアという文字を!

 えっとルだから・・・。

 どんどんと目線をさげていく俺。生徒数が多い分なかなか見つけられない。

「見つけた!」

 俺はルノア様の手を引いて人の波から抜け出る。

 朝でこれか・・・これからもっと酷くなるんだろうな・・・・早く出てよかった!

「サシャ・・・私のクラスは分かりましたか?」

「ばっちりですよ!四組です!」

 一年棟はこの廊下を進んでいった先にあるはず。

 その前にルノア様の服についてしまった皺を伸ばす。

「さ、行きましょう。こっちです」

「はい」

 もう人混みではないけれど、俺はしっかりとルノア様の手を握る。

 あぁ~柔らかいなぁ。




 クラスの中には生徒の人数分の机と椅子が並んでありクラスの壁には黒板がある。

 なんか日本の学校みたいだな・・・・。

「なんだか変わった学校で新鮮ですねサシャ!」

 なるほど変わった学校なのか・・・、まぁ魔法使いの学校らしいし庶民には分からんのか?

「楽しみですねー」

 なんてルノア様が胸をときめかせていると―――

「あ?なんでこんな所にまで裏切者がいるんだ?」

 どっかの地下牢まで挨拶にきたクソガキの声が俺の鼓膜を叩きやがった。

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