ボル恋 〜超高層ダンボールロボ「ボールダン」のパイロットのちょっとした恋の話〜

プロローグ

僕とあいつ

－－壊して良かったんだろ？

　爆煙がまだ残るビッグボールの上、僕の目の前には、あの頃と変わらないあいつがいた。

　あいつが、ぽーんと蹴ったサッカーボールを足で受け止めようとしたけど、上に大きく弾かれただけだった。

「言っただろ、リフティング下手なんだって」

＊

　あいつの話を聞きながら見上げた空は、雲のない澄んだ青色だった。

夏を前にした日差しは、何にも邪魔されず僕らがいる校庭を照らしていた。

　あいつはサッカーボールをリフティングしながら、試合で負けた原因を考えていた。

　相手は市内でも有名なサッカーチームで、負けるのは仕方がないと僕は思っていたけども、あいつはそういう理由では納得できないでいた。

　そんな風に真剣になれるあいつを、僕は輝かしく思っていた。

　そもそも僕は試合に勝とうが負けようがどうでも良く、勝った時の方がうれしいと思うくらいで、サッカー選手になりたいとか、ワールドカップに出たいとか、そんな大きな夢は持っていなかった。

　なにせ、リフティングすら10回も出来ない僕が、そんな夢を持ったところで叶うわけがないと思っていた。

　そんな僕に、あいつは「がんばれば、なれる！」と真剣な目で語ってきたことがある。僕は『こいつならなれるかもしれない』と子供ながらに思ったものだ。

「……聞いてるか？」

　そう言って、あいつは僕の顔を覗き込んできた。

「あ、うん、聞いてるよ」

　僕は慌ててそう答えたものの、実際には真剣に話すあいつを見ていただけで、聞いてはいなかった。

「なんでだろうな？」

　あいつの話を聞いていなかった僕には、当然その問いかけが何なのか分からなかった。だから、あいつがさっきまで話していた試合の負けた理由について答えることとした。

「ほら、相手は強いからさ」

　僕の言葉に、あいつは少し黙っていた。そして「ちがうよ」と言って、校庭の隅を指さした。

　その先には、ひとりの女の子が座っていた。

　校庭の隅にある桜の木の下で、日差しを避けるように、本を読んでいるようであった。

　僕は、彼女のことを知っていた。“かわいい”とか“おもしろい”とか、そういうことで知っているのではなく、むしろその逆で“あまりにも目立たない”ことで知っていた。とにかく無口で、授業以外では声を聞いたことがないと言われるくらいだ。

　そのせいか友達はいないみたいで、いつもひとりでいた。

　そんな彼女は、昔の僕みたいだった。

　今の僕はひとりぼっちではなかったし、それなりに友達もいた。親友と呼べるやつもいた。クラスの人気者というわけではないけど、嫌われ者でもなかった……と思う。

『……と思う』

　僕は、この当時のことをあまり思い出せないでいた。

　この日のことも、こんなことがあったとまでは思いだせるけど、これ以上のことは思い出せなかった。そう、その女の子の名前、ましてや親友の名前さえ思い出せないでいた。

「……あのコがどうしたの？」

　きっと僕はそう聞いた。

「……やっぱ聞いてないじゃないか」

　きっとあいつはそう言った。

「……まぁ、いいや、負けた原因はな……」

　僕の断片的な想い出のひとつは、『そんなもの』だった。