ちょっとした冒険

先日、4駅離れたところにある歯医者に行った。どうしてそんな遠くまで行ったのかは、そのうち説明したい。


歯医者自体はおとなしくできた。帰ろうとしたら、息子が歩いて家まで帰ると言い出した。その駅は、小学校がある駅で、息子はバスに乗って家から学校までの道程を覚えていたわけだ(と言っても、大きい国道を一直線なんだけど)。


時間もあったし、それも面白いかなと思って、息子の好きなようにさせてみることにした。多分、一駅くらいでギブアップかな、という腹積もりもあった。


国道沿いの歩道を、息子についてテクテクと歩く。なんかブツブツ言っているだったが、彼なりに何か考えているところがあるのだろう。


小雨が降っていた。彼はグレイの小さな傘をさしている。目の前で傘が揺れる。自転車や他の歩行者がきたら、傘のさきをつまんで歩く場所を変えさせる。そんな感じで歩き続ける。


20分くらい歩いただろうか。隣の駅に向かう道への交差点についた。


そこで息子が交差点の角のマンションを指さして、友達の名前を言って、「おうち」のマカトンをした。どうやら、学校のお友達の家がここらしい。そして、遊びに行きたいらしい。


いやいや。いきなり遊びにいくことはできない。少なくとも前もって「行ってもいいですか?」と聞いて、「いいですよ」と言われたら行かないと。


そうすると、今から電話してアポをとれと言う。


といっても、電話番号しらないし。メールアドレスは家に帰ればわかると思うけど。


そんな感じで、息子はその場から動かなくなった。


電話しろと主張し、その度に今はできないから、今度電話して聞いてみてあげるからと説得するが、納得しない。いまやれという。


そんなこんなで30分くらい押し問答をしていた。


「じゃあ、家に帰ったらメールしておくよ。そうしたらお返事もらえるかも」


と言ったら、なぜか急に納得した。わからん。違いがわからん。


そして、自分の家に帰ると言い出した。


「歩いて帰る?電車で帰る?」と聞いたら、電車だと。やっぱり一駅だった。


駅まで歩いて、残りの3駅を電車で帰ってきた。ちょっとした冒険になった。


SSSS.GRIDMANのOP曲「UNION」の歌詞で、「君を退屈から救いに来たんだ」というのがある。それを聞いた時、そうだヒーローはいつも僕を退屈から救ってくれた、それこそがヒーローなんだ、と思った。


息子は僕を冒険につれていってくれる。今はまだ小さな冒険だけど、いやある意味すでに大きな冒険に連れだしてくれているのだろう。


息子は僕にとってヒーローなのだろう。だったら、僕も息子のヒーローになりたいと思うけれど、彼はわりと自力で退屈から抜け出す方法を知っていそうなので、見守るのが吉なのかもしれない。


ちなみに家に帰って聞いたら、そのお友達の家は、全然違うところらしい。まだまだ息子のやることには目を光らせておかないと駄目なようだ。

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