言いたい言葉、書きたい言葉

小学二年生も半分が過ぎた。不思議なことに、昨年末あたりから、急に息子の発語が増えてきたように思う。


その前から、文字への興味が強くなり、学校で50音を教わっていることもあり、「あ、い、う、え、お!」と大きな声で読む練習をしたり、落書き帳にひらがなを書く練習をしたりというのを、自発的にやっていた。


どうやら、彼の大きなモチベーションになっていたことがあったようだ。言いたい言葉、書きたい言葉があったのである。


それは、友達の名前。


彼はクラスの友達が大好きである。同じダウン症の子供でも、得意不得意がバラバラで、クラスの友達の名前を全部言える子もいれば、言葉は遅いけれどお手伝いが上手な子とかがいる。先生はその子の特性に合わせて係の仕事などを割り当ててくれているようだ。

息子は発語が遅い。言葉の理解は結構できていると思うし、3歳くらいから「もうすぐ喋りだしそう」と言われているが、まあ、遅い。それでも少しずつ言える言葉が増えてきた。マカトンを積極的に使うようにしたら、それに合わせて言葉も出たり、自分がすきな「いちご」なんかは言えるようになった。ただ、「いちご」と「りんご」がごっちゃになっているのが、ちょっと困っているが。


そんな中でも、どうやら一番言えるようになりたかったのは、友達の名前のようだ。多分、学校の朝の会なんかで、友達の名前を呼んだりすることがあるのではないかと思う。


最初に、自分の名前を言えるようになった。最後に「くん」と付けているので、「です」のほうがいいよ、と言ってはいるが、学校で呼ばれているからだろう。


次にふたりのお友達の名前を言えるようになった。ついでに、お母さんの名前も言えるようになった。二文字で言いやすいから。なぜかお母さんだけ呼び捨てだけど。


クラスにはあとふたりお友達がいるのだけれど、このふたりの名前はなかなか言わない。なぜだろうなと思っていたら、どうやら濁点が含まれるからなようだ。

でも、それからしばらくして恐る恐るだけど言ってみていたし、ひらがなの濁点半濁点にも最近興味を持っているので、そろそろみんなの名前を言うようになるかなと思っている。


名前を言えるようになるのと並行して、名前を書く練習もしていて、間もなく書けるようになった。これもまずは、濁点を含まないふたりの名前だけ。


次に始めたのは、お手紙を書くことである。これは、保育園の時に女の子の間で流行っていて、息子も何度かもらってきた。

あの頃のみんなのレベルにようやく追いついたか、と感無量である。


そんなことを続けていた昨年の年末、確か寝間着に着替えていた時だったと思うのだが、突然「あ、り、が、と」と言った。前から「あーちょ」とか「あーと」とは言っていたのだが、はっきりと「あ、り、が、と」と言ったのは初めてだった。すごいねえと言いながら、「いえいえ、どういたしまして」と答えた。


その後も、突然これまで言ったことのない単語の発語が何度もあり、試しに「こんにちは、って言えるかなあ」と聞いたら、がんばって「こ、ん、に、ち」まで言えた。


多分、今、言葉の爆発期なんじゃないかと思う。


いや、本当は分からない。ただの期待だと思う。でも、それくらい発語が増加している。実際、単語ではあるけれど、文章にはなっていない……いや、三語文を言葉だけで言ったこともあったな……ううむ。


これまで色々なことを言われた。この子はそのうち喋れるようになる、お喋りは苦手なタイプなんだろうね、就学前までのSTが大事。就学前のSTは頑張って受講していた(主に妻が頑張って)と思う。保育園でも、定期的にSTの先生が園に来て指導してくれていた。

現実問題として、発語は遅いほうだ。僕が早口なのに原因があるのかなと考えたこともあるし、夫婦共声が小さいのが原因なのかと話したこともある。


一方で僕自身はそんなに深刻な気持ちにならなかった。長い目で見ればそのうち喋るんじゃないの?という根拠のない楽観視があったのと、仮に喋れなくても日常的な意思疎通はできていて困らなかったからだ。ただ、家族はいいけど他の人とのコミュニケーションができないと就業の時に困るだろうと思っていた。だから、今の発語が増えている状況をみてホッとしている。「やっぱりそのうち喋るんじゃないの?」が、前よりも真実味を帯びてきたからだ。


お父さんもお母さんも君とお話したいけれど、君を後押ししたのは友達なんだね。

それはそれで、いいことだと思うよ。



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