エルピナ歴170年三月 心残り

・三月十一日

 罠にウサギがかかっていた。

 食べる事に対して心は痛まないので普通に料理する。

 ローストし、壺に沢山保存しているザワークラフトと一緒に、パンへ挟んで食べた。山椒でもかけておけば良かったのかと、後で後悔したので次に街に言った時にでも買っておこう。ついでに新曲デビューも良いだろう。

 

・三月十二日

 ライフル射撃の訓練をする。

 使用するのはモシン・ナガンM1891。ソ連の主力小銃で、スパイク型の銃剣(銃剣と言えばナイフのようなものを想像されるのが大半だが、スパイク型は突き刺す事に特化しており、寧ろ槍に近くナイフは無い。普通の銃剣よりも長いリーチが在る)を付けられる事、そして旧式銃特有のイングリッシュ・ストック(直線型のグリップ。握る位置が固定されないので融通が利くが、技量が必要)である事。

 キジバトを相手に、クレー射撃の要領で撃ってみた。相手は生き物だから、やや受け身の気持ちを保ちつつ一気に攻め込む必要があるけど。

 やはりイングリッシュ・ストックは上に対して撃ち易いね。

 途中でコジュケイ(飛ぶのは得意ではないが、隠れ、走るのが上手い鳥)も入手し、羽を毟るのが大変と泣き言を吐いてみる。これを書いているのも実は羽毟りの最中だ。

 

・三月十三日

 街に出ても良いかもなぁ。

 昨日、散々ライフルを扱ったら少し休みたくなった。

 そりゃ鳥じゃ食いでが無いし、もうちょっと本格的に探索すれば鹿やらイノシシやら見つかるとは思うんだけど、鹿は冬序盤では脂も少ないし、イノシシは寧ろ市街地付近に多かったりする。ここがSF溢れるサイバーパンクでも田畑の獣害は防げないようだ。(小型の安い警備ロボットだと簡単に壊されたりする)

 べ、別に街が気になっている訳でもないんだから。

 僕は暖炉の中の黒い塊へスゥと視線を流した。

 

・三月十四日

 明日は街に到着するだろう。僕はトラックに乗ってガタゴトとした道を走る。

 四月も近くなってきた影響か。空が気持ち明るんで感じる。

 途中でイノシシに出会って突撃してきたが、取り敢えず眉間にライフル弾を叩き込んでやった。直ぐに血抜き、そして燻したまでは良いんだけど非常用の水をすべて使ってしまったのが痛いな。

 町に着いたら補給しよう。そしてこのベーコン、作ったは良いけどどうしよう。

 

・三月十五日

 街に着いたのでまた、またたび亭へ厄介させて貰う事にした。この宿は突然の来客でも融通が利くのが良いね。

 女将のアンナさんと、決して本気ではない鼻歌交じりの談笑をしていると肩から吊るしたベーコンの話題になったので勧めてみたがバッサリと断られる。そりゃそ~だ。

 

・三月十六日

 バザーはもうやっていないので広場はスッキリしたような、がらんとしたような感じで、まるで同じ国とは思えなかった。

 ところどころ見える浮浪者もその一端なのか。

 ところで痛い視線が気になったので夕飯の時にアンナさんにそれを言ったらゲラゲラ笑われて、浮浪者に間違われているんだろうと言われた。解せぬ。少しは小汚いかも知れないけどちゃんと楽器だって持っているのに。

 後、どうやらこの間ウチに来た機械みたいな兵隊が此処にも来て、一件々々訪ねた非常にシュールな光景が繰り広げられた為に不審者に対して警戒があるらしい。

 警察も彼等の所属を追っているそうなのだが、まるで足は掴めず、また今何処に居るかも分からないらしい。

 どうやら近隣をお遍路参りよろしく順々に訪ねている訳でも無いそうだ。

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あかとんぼ日記 カオス饅頭 @1sa

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