エルピナ歴170年三月 訪れ

・三月一日

 もう三月かと、日記をつけていないと気付かないものだ。

 そういえば風も暖かくなってきた。もしかしたら山菜も結構あるかも知れない。

 

・三月二日

 三月の山菜と云う事でタラの芽を探した。

 ここはタラノキに新芽が生えるのが早く、結構な数が収穫できた。一般に売られているタラの芽は栽培ものなので、これは山に住む者の特権だろう。

 ついでに大量のウドも手に入れる事が出来た。

 

・三月三日

 タラの芽とウド、そして熊の燻製で肉巻きを作った。

 タラの芽かウドを燻製で巻いて脂身で焼く簡単な料理だ。味の調節は燻製の塩がやってくれる。

 黒パン、それに熊で出汁を取ったスープと一緒に食べた。久しぶりに上手い飯を食べた気がするので調子よく酒交じりに歌っていたら、なんか良さげなフレーズが偶然出来た。

 

・三月四日

 炭が少なくなってきたので、斧と人力車を持って森に木材を取りに行った。

  はじめはチェーンソウを使っていたのを覚えているが、気付くと斧になっていた。樫の木を一本伐採して、家に戻った。炭焼きは明日にしよう。明日がんばる。

 

・三月五日

木炭を昨日の樫で作った。

ジャンク屋から買った中古RDのコックピットを窯に、リアクターを火種として使った炭窯だ。宇宙でも脱出ポッドとして使用できる仕様だった為、密封性は十分だった。

リアクターは火力が欲しかったので、推力のある後期RDのものを使用。お陰で、一日で木炭が出来上がった。

 

・三月六日

客人ではないが、人が訪れた。アサルトライフルを持った自称傭兵で、三人一組で行動している。

その動作からヒューマノイドではないのかと感じたんだけど、タイムラグや小動物への反応から仕草の中に人間がどうしても漏れる。

だから物凄く感情に乏しい、物凄く機械のように訓練された間諜だと思う。殆どがよく人間に似せた機械の身体だけど(目玉ですら義眼だった)。

なんでも人を探しているらしく、画像では褐色で金髪。そして十代半端のやや吊り目をした、人形のような少女だった。

脱走兵か何かだろうか。下手に関わらない方が良いだろう。

 

・三月七日

何事もなくゴロゴロした。昨日の奴等との会話が兎に角続かなくて、何時『バレる』のかヒヤヒヤもので疲れた。

 

・三月八日

 作曲をした。

 しかし興が乗らず、途中で止めてしまう。もう少し頭を整理した方が良いだろう。

 綺麗にまとまったサビが出来たので、そこを核に作れば上手くいくと思う。

 

・三月九日

 作曲をした。

 使いたいサビを入れてみたら物凄い違和感が出た。当てはめては崩し、当てはめては崩し。その繰り返しをするも最後に当てはめた最も重要なサビが全てを台無しにした。

 

・三月十日

 屋根の上で星を見ながら、リュートを出鱈目に弾いた。

 こういう時は何も考えずに、なにかするのが良い。それをして許されるのならそれが良いんだ。少なくとも今僕に対して許さない権限を持っているのは僕なのだから、好きに歌えば良い。

 流れ星が閃引いた。僕は何も願うことなく、流れ星を羨んだ。

 流れ星は廻り巡り、何も気にせず、人の願いを撒き散らして銀河の彼方まで人知れず。

 なんか、サビがカッチリ嵌った気がするんだ。

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