第49話 ご当地ぷっちょ・旦那のロックオン編

 食事と土産物の冷やかしを終えた私達は、今夜の宿へ向かって車を走らせ始めた。と言っても運転手は旦那なので、私は先程購入した晩白柚味のプッチョを早速開き、一粒口の中に放り込んだ。


「おっ、何だか思ってたのとは違うけど、かなり美味しいかも」


 柑橘類のお菓子特有の甘酸っぱさは予想通りだったが、ほのかな苦味も同時に感じられる。たぶん皮の部分も味の中に入っているのだろうが、お子様向きお菓子と思われるプッチョに『苦味』の要素が入っているとは想定外だった。その苦味は想定外の美味しさとして舌を楽しませてくれる。

 じっくり一粒を味わったあと、やはりそれだけでは少々物足りなくてもう一粒を口の中に放り込んだ。その時である。


「それ、ちょうだい」


 旦那が私が食べていたプッチョに興味を持ったのか、欲しいと言い出したのだ。その一言に私は目を丸くする。

 何故なら結婚してから10年以上、旦那がプッチョやハイチュウなどのソフトキャンディを食べたのを見たことがないからである。あまり甘いものが得意ではない旦那である。もしかしてガムと間違えているのかもしれない。勘違いしていたら気の毒なので私は一応確かめる。


「これ、ガムじゃないよ?大丈夫?」


 しかし旦那は黙ったまま頷き、左手を差し出してきた。運転している為包み紙を剥がすことができないので、剥いてからよこせという事らしい。まぁ、プッチョ一粒ならたかが知れているし、口に合わなかったら吐き出せば済むことだ。

 私はプッチョの包み紙を剥がし、それを旦那の手に落とす。それを旦那は自分の口の中に放り込むと、味の感想も言わず黙ったままプッチョを味わい始めた。


(おっ。どうやら吐き出しはしなさそうだな。これなら口に入れている分は問題ないか)


 だが、私のこの読みは極めて甘いものだった。口の中のプッチョが無くなるや否や再び手を出しだして来たのである。思わぬ行動に私は驚きながらもう一粒旦那の掌にプッチョを落としたが、これが『驚異のプッチョ一本食い』の始まりであることに私は全く気が付かなかった。

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