第48話 ご当地ぷっちょ・晩白柚味との邂逅編

 高千穂峡を後にした私達は暫く車を走らせ、道中で偶然見かけた道の駅らしき施設で昼食を取ることにした。できれば土地の名物を見つけ出して食べたかったところだが、高千穂峡からこの日の宿に行く途中、適当な店を予め見つけ出すことができなかったからである。

 そこの食事処でうどんを食べた後、私達は隣接しているお土産屋さんを覗いた。宮崎県である高千穂とは違い、ここは熊本の土産物がずらりと並んでいた。


「自宅に持ち帰るお土産は最終日に買うからここではいいかなぁ」


 と、何とはなしに呟いたその時である。『くまモン』がパッケージに描かれたお菓子が私の目の端を掠めたのである。それを手にとってよくよく見るとそれは関東でも馴染み深い『ぷっちょ』だった。だが味は今まで見たことも聞いたこともない『晩白柚』なる、柑橘系果実である。どうやら地方限定味というやつらしい。


「ばんぺいゆ?一体どんな味なんだろ?」


 わざわざ県のブランド・くまモンをパッケージに描いているのだ。きっと自信作なのだろう。どんな味か気になるし、ぷっちょ一本くらいならかさばらない。値段も他のおみやげに比べたら可愛らしいものである。


「車の中で食べるおやつに丁度いいかも」


 うどんを食べた後で口の中が微妙にしょっぱかったというものあり、甘いものが恋しかった。旦那がこの手のソフトキャンディを食べるかどうかは判らなかったが、ぷっちょ一本くらいなら自分ひとりで何とかなるだろう。


「すみませ~ん、これください!」


 私は微妙に寂れた感じのレジの中に居たお姐さんに声をかけ、晩白柚味のぷっちょ一本だけを購入した。できればもう少し何か買いたかったのだが、他にめぼしいおやつやお土産が見当たらなかったのだ。

 くまモンの笑顔眩しいぷっちょ晩白柚味―――この時は単に『珍しい味のご当地限定プッチョがある』としか認識していなかった。しかしこの1時間後、このぷっちょによって思いもしなかった自体が引き起こされることになろうとは、このときの私は思いもしなかった。

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