第37話 鹿児島から車でひたすら北上編
砂むし温泉と精進料理並みに野菜たっぷり料理を堪能した翌日、私達は早々に指宿を出立し、会社の保養所がある由布院へと向かった。折角鹿児島くんだりまで来たのに薩摩藩ゆかりの歴史的建造物も西南戦争の激戦地・田原坂も一切見ること無く、である。
「それにしても何でこんな無茶な計画立てるかなぁ」
助手席に座った私はぼそり、と呟く。何せ今日は昼食を食べる為に阿蘇に寄る以外、ただひたすら宿に向かって移動するだけなのだ。それ以外観光の予定は一切立てていない。というか時間的に立ち寄れる場所が無いのだ。
そもそも鹿児島中央駅に向かう電車以外、車で由布院に移動すること自体間違っている。こういう時こそ公共交通機関を使うべきだと思うのだが、融通のきかない旦那に理屈を諭しても無駄なだけだ。しかし何も見ずに宿に入るだけというのも悔しいものがある。
「ねぇ、別府には立ち寄れないの?由布院とは何となく近いようなイメージが有るんだけど。地獄めぐりとかちょっと面白そうだよ」
そう言いながら私は膝の上に広げたガイドブックに目を落とした。どうやら別府には入る温泉だけでなく見物するだけの温泉もあるらしい。
そんな観覧を主な目的とした温泉を別府では『地獄』と称し、観光コースもあるとガイドブックには書いてあったのである。ただ組合に属する地獄8つを全部巡ると2時間半もかかってしまうので、見ることが出来るのは1,2箇所くらいかもしれない。
「別府地獄めぐりかぁ。由布院から比較的近いし、温泉が集中している街中の物だったら少し見ることが出来るかもね」
流石に移動だけでは悲しいものがあると思ったのだろう。意外なほどあっさりと旦那は私の提案を受け入れてくれた。だがその前に阿蘇で腹ごしらえだ。
少なくとも今日の昼は『あか牛丼』―――つまり肉にありつける。前日からほぼ野菜と炭水化物しか摂取していない私達は歴史ある薩摩の名所に立ち寄ることもせず、阿蘇の山中にあるという『いまきん食堂』だけを目指してひたすら北上した。
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