第38話 阿蘇の山奥の行列店編

「あのさぁ。本当にこんな山奥にあるの?『いまきん食堂』って」


 阿蘇山を超え、ただひたすら車を走らせる旦那に対し、私は恐る恐る尋ねる。一応カーナビは進んでいる道が正しいことを告げているが、進めど進めど山道で、食事処の気配など微塵も感じられない。

しかし旦那は妙に自信満々に『大丈夫』と言い切った。だが、詳しく聞くとちっとも大丈夫ではない。


「この先の内牧、ってところにあるお店らしいから。問題は駐車場かなぁ。混んでるって噂だからなかなか止められないかも」


 と、更に恐ろしいことを言い出したのだ。方向音痴二人が初めて訪れる土地で、無事駐車場を見つけ出すことが出来るのか?否、そもそも『いまきん食堂』に辿り着けるのだろうか?かといってこんな山奥では他に食事をするところは勿論、コンビニさえ見当たらない。下手したら夕飯まで食事ができないかもしれない。

 半ば諦めかけていた正にその時、不意に景色が山の中から街中に突入した。どうやらそこは市街地らしく、幾つかの店舗が並んでいる。ここならば目当ての店『いまきん食堂』もあるだろう。と思っていたらまず最初に店の駐車場の看板を発見してしまった。

 きっと他所から来て駐車場探しに右往左往する人間が多かったのだろう。しかし店そのものよりも駐車場の場所のほうがわかりやすいというのも珍しい。私達は取り敢えず駐車場に車を止めた後、店そのものを探し始めた。が、駐車場から見える範囲にそのような店は見当たらない。

 どうやら店から少し離れた場所にある駐車場に停めてしまったらしい。私達は仕方なく駐車場を後にして、店を探し始める。すると駐車場からは死角になっている場所に大行列を作っている店があるではないか。あれは間違いなく『いまきん食堂』の行列に違いない。

 私達は店に近づき、順番待ちノートに名前を書いた後行列の最後尾に並ぶ。その人数から換算するとおよそ30分から1時間くらいは待たねばならないだろう。ここまで来たからには腹を据え、気長に待とうと私は読みかけの文庫本を取り出し、読み始めた。

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