第35話 指宿温泉の強すぎる効能編

「あ~つ~い~!湯冷めしないのはありがたいけど、熱すぎる~!!」


 エアコンをガンガン効かせた民宿の部屋で、私は既に10回以上は呟いているこの一言をつぶやかずにはいられなかった。砂蒸し風呂施設から帰ってきてかれこれ1時間以上、一向に湯冷めする気配を見せないのだ。

 普通の温泉に入り、室内に居続けたとしても30分もすれば大抵平常に戻るものだが、指宿の砂蒸し風呂は全く違かった。砂蒸し風呂で付いてしまった砂を落とす為、かなりぬるめの湯を体中にかぶり、休憩所では『汗をかいた分はきっちり水分補給』とばかりに冷水をがぶ飲みした。更に指宿の海風にあたりながら薄着で宿に戻ったのだが、それでも火照りは全く収まらない。

 よく『塩化物の入った温泉は湯冷めをしにくい』と言われるが、指宿温泉の効能はそんな生易しいレベルではない。一説によると指宿温泉の成分は『化石海水』と言われる、普通の海水とは成分が違うものらしいのだが、そんな説も素直に受け入れてしまえるほど火照りは長く続いていた。

 だが私はまだ暑さに強いので耐えられるが、そうじゃない人間がすぐ横にいる。7分しか砂蒸し風呂に入っていないにも拘らず、私以上に暑がっている人間―――それは旦那だった。エアコンの温度を下げるだけじゃ飽きたらず、風の吹き出し口に陣取って暑さをしのいでいる。

 確かに外気が暑いのならそれは効果があるだろう。しかし私達が感じているこの暑さは身体の内側に染みこんだ温泉成分に因るものなのだ。その効果が消えないかぎり暑さから逃れることは難しいだろう。というか、エアコンで部屋を冷やしても火照りは全く収まらないのだ。


「これは冷えたビールに頼らないと火照りは収まりそうにないかな~」


 私はそれとなく旦那に催促する。普段は『たしなむ程度』にとどめているが、旅先ということもあり多少多めに飲んで酔っ払っても問題無いだろう。美味しい鹿児島料理とビールは絶対に合うに違いない。

 結局砂むし風呂による火照りは寝るまで全く収まること無く、翌日の昼近くになっても効果が持続していた。冷え性の人にはこれ以上はない効能だが、そうじゃない私達にとっては効能が強すぎる。もしかしたら日本で一番冷え性に効く温泉なのではないだろうか?次回入るときは絶対に真冬にしようと心に誓いつつ、私達は夕食を食べるため部屋を後にした。

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