第34話 指宿砂蒸し風呂の入り心地は?編
Tシャツ&ハーフパンツの細マッチョのお兄さんも捨てがたいが、やはり伝統的砂かけ婆スタイルのお姉さんには敵わない。見てくれもそうだがその技術もである。砂に出来たくぼみに横たわった私に砂をかけてくれたのはベテランのお姐さんだったが、その砂のかけ方が絶妙なのだ。
得てして砂というものは崩れやすいので、ついつい多くかけすぎてしまう。湘南生まれの湘南育ち、幾度も砂に埋もれたり友人を砂に埋めて遊んだ経験を持つ私だが、どうしても『完璧』を求め、きちんと埋めようとすると砂が多すぎ体に負担をかけてしまうものである。
だが指宿のお姐さん達は客の身体に負担がかからぬよう『ふわり』と砂をかけるのだ。さながらふんわりと握られる『おばあちゃんの握り飯』の如し、とでも言うのだろうか。それこそ羽毛布団のような優しいかけ心地に、全身が瞬く間にリラックスモードになる。 そしてリラックスモードになった身体に染みこんでくるのが濃厚な温泉成分だった。浴衣を着ているにも拘らず、かなり濃厚な温泉成分が体中に染みこんでくるのが判るのだ。砂からは10分経ったら出るようにとの注意があったが、確かにこの温泉成分の濃厚さ、そして温かさを考えると頷ける。
与謝野晶子もこの温泉を堪能し、『しら波の下に熱砂の隠さるる不思議に逢へり指宿に来て』と歌を詠んだという。きっと夫婦揃って砂蒸し風呂を堪能したのだろう。しかし私ら夫婦はそんな叙情あふれる愉しみ方など出来なかった。何故なら砂蒸し風呂の熱さに旦那が音を上げたからである。
「あづい!!もう出るっ!!これ以上は無理っっっ!!!」
砂に埋もれて7分後、熱さに耐え切れなくなった旦那が砂から這い出し逃げ出した。どうやら若いお兄ちゃんにかけられた砂が少々多すぎ、熱を蓄えすぎてしまったようだ。一方私の方はふんわりした砂により適度な温度が保たれている。
砂かけ姐さんの『ふんわり』した砂かけは、適度な熱を保つためなのだろう。規定時間いっぱいの10分間、砂蒸し風呂を堪能した私は砂を洗い流すために洗い場へと向かう。そして洗い場で砂を流し、ひと風呂浴びた後に砂むし温泉の本当の効能を知ることとなる。
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