第23話 九州縦断特急旅~新幹線『さくら』編

 門司の鉄道をたっぷりと、そして博多の夜をほんの少しだけ堪能した翌日、私達は朝から新幹線に乗り込み熊本へと向かっていた。だが、今日の目的地は熊本ではない。


「ううっ、とうとうこの日が来てしまった」


 テンションMAXの旦那の横で私は力なくがっくりと肩を落とす。九州旅行二日目、この日は旦那の第一の目的である九州縦断特急旅の日なのだ。

博多から熊本まで向かう新幹線『さくら』はまだ序の口、これから『くまかわ』『いさぶろう・しんぺい』『はやとの風』『指宿のたまて箱』とJR九州ご自慢の特急列車を乗り継ぎ指宿まで向かうのである。

 しかもただ乗り継ぐだけではない。四泊五日分の巨大な荷物を持って乗り換えをしなければならないのだ。エレベーター・エスカレーターが設置されている大きめの駅での乗り換えならまぁ何とかなるだろう。問題は階段しかないような小さい、または古い駅舎だった場合だ。下手したら大荷物を抱えて電車に間に合うよう階段をダッシュしなければならないかもしれない。

 そんな心配をしている私の横で、旦那はこれから乗り込む特急達が掲載されているパンフレットを嬉々として見ている。やはり神様・水戸岡鋭治氏デザインの特急に初めて乗り込むということは、乗り鉄にとって特別なことなのだろう。


「乗り心地はいいし、外見も内装もきれいだし……確かにデザインは最高なんだけどねぇ」


 本州の新幹線の五列シートと違い、四列しか無いシートはゆったりしているし座り心地もかなり良い。しかもそれがグリーン車ではなくごく普通の指定席車両なのだ。因みに覗きこんだら自由車両も同じく四列だった。このような贅沢な作りが許されるのは九州だからだろう。出張サラリーマンが多い東海道新幹線では絶対にありえない。

 閑話休題。その気になればこの新幹線で鹿児島まで行けるのに、わざわざ不便な思いをしてあらゆる特急に乗りまくる。これが鉄オタ、特に乗り鉄の業なのだろう。ただでさえ理不尽なものを感じるのに。更に四泊五日分の荷物を抱えて付き合わなきゃいけないのだ。嫁としても旅のパートナーとしてもやっていられない。

 せめて時間的に余裕があることを心のなかで願ったその時、熊本駅がもうすぐだという車内アナウンスが流れた。さすがに熊本駅はエレベーターもエスカレーターもあるだろうから駅構内の移動は問題無いだろう。私は大きく息を吸った後、棚の上に乗せていたリュックを背負い、着替えが入った大鞄を肩にかけた臨戦態勢を作り上げた。

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