第21話 古戦場・壇ノ浦&巌流島編

「これが壇ノ浦海域……にしても潮流早すぎない?」


 日本に数ある古戦場の中でも特に有名な壇ノ浦、そこは極めて海流が早い海峡でだった。どれ位早いかというとエンジン全開の巨大タンカーが5分近くかかってもこの海域を抜け出せないほどだ。そんな流れの早い海域で、しかも手漕ぎの船で源平の兵士達は死闘を繰り広げたというのである。私の地元でもある源氏のお膝元・鎌倉の目の前にあるのんべんだらりとした相模湾とは対照的だ。というか、よくぞ瀬戸内や壇ノ浦の潮流で鍛え上げた平氏水軍に源氏が勝てたもんだと感心する。きっと他の戦い同様義経あたりが小狡い、もとい斬新な戦略を使って勝利をもぎ取ったのだろう。

 だが、そんな感慨に耽っている私とは対照的に、旦那はキョロキョロと壇ノ浦全体に視線を走らせている。一体どうしたのだろうか?と私が訝しく思ったその時である。


「どうやら巌流島もこの近くにあるらしいよ。どこだろう?島らしいものは見えないけど」


「がんりゅうじまぁ?あの宮本武蔵と佐々木小次郎が戦った、あの巌流島?」


 これもまた有名な歴史スポットである。決して大きいとはいえないこの海域に、更に有名スポットがあるのかと思わず私は聞き返し、旦那が見ていた別の看板を覗き込んだ。するとそこには源平合戦の他に巌流島の決闘の事も書かれており、ご丁寧に地図まで掲載してあった。その地図を頼りに旦那はキョロキョロ一帯を見回し、巌流島を探していたのである。

 だが目の前の海岸線と地図を照らしあわせてみると、巌流島の場所は私達のいる場所から相当離れた場所にあることが判った。つまり私達が現在いる場所からは絶対に巌流島を見ることは出来ない、そんな地理的状況だったのである。

 それは地図を見ればすぐに判ることなのに、何故か旦那は巌流島を探そうと躍起になっていた。やはり男としてタイマン勝負というのは魅力を感じるものなのだろ―か?なお私はそれぞれの裏事情が見え隠れする、とどのつまりおっさんの就活でもある巌流島の決闘にはいまいち萌えを感じない。


(やっぱり生きるか死ぬかの滅びの美学が感じられないとね~。五稜郭もそうだったけど、この後がない、っていう悲壮感がやっぱり萌えるわ)


 しつこく巌流島を探す旦那と、未だ壇ノ浦海域を抜けだせずにエンジンを吹かしまくっている巨大タンカーをぼんやり眺めつつ、私はいにしえの戦いに再び思いを馳せた。

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