第20話 トロッコ列車・潮風号の行き先は?編

 門司港駅の横を通りすぎ九州鉄道博物館に到着する直前、ひときわ多い人だかりに遭遇した。どうも出店の類ではないらしい。時間的に余裕があったので、私達はその人だかりに近づいていった。

 そこは小さな駅で、人だかりを作っている人々が停車している小さな列車に乗り込もうとしている。それを知った途端、旦那はその詳細を調べるため、私を置き去りに駅の方へ小走りに走って行ってしまった。このマメさを家事に反映させてくれればどれほどありがたいかと思うのだが、自宅では典型的なぐうたらオヤジと化すのがうちの旦那である。


「ただいま~。何か特別なトロッコ列車が走るみたいだよ」


 暫くして私の許に帰ってきた旦那の情報によると、『潮風号』なる真っ青なトロッコ列車がお祭りの為に運行されているというのである。しかも発車直前でまだ乗車に余裕があるというのだ。こんな美味しそうな餌を前に飛びつかない鉄オタはいない。案の定旦那の手には既に2枚のチケットが握られていた。


「鉄道博物館はこれに乗ったあとでも大丈夫でしょう。じゃあ行こうか」


 と、私にチケットの一枚を渡すと、旦那はトロッコ列車に乗るための行列の最後尾に並んだ。こうなると誰にも止められない。私も仕方なく旦那に続いて列の後ろに並んだが、このトロッコ列車の行き先が歴史上極めて有名な場所だとはこの時全く思いもしなかった。




 トロッコ列車『潮風号』は暫くの間走り続け、少し開けた場所に到着した。ちょっと見には普通の公園のようだったが、わざわざ駅を作るのだから何かしらあるに違いない。旦那もそう思ったらしく、戻りの列車が来るまで周囲を歩いてみようと言い出した。

 公園は海に沿うような形であり、海側には遊歩道が整備されている。とりあえず歩きやすそうだということで遊歩道を歩き始めると、やけに目立つ石碑やら看板やらが目に入ってきた。一体何が書かれているのか、私は近づき看板の一つの文面に目を通す。

 それはすぐ傍にある石碑『句塚』の由来が書かれたものだった。門司俳人協会が供養のために設けたものとのことだが、その供養の相手がとんでもなかった。


「二位尼に安徳天皇、って……しかもここは壇ノ浦海域で、向こう岸が壇ノ浦そのもの、だと?」


 そう、その句塚は壇ノ浦の合戦で命を落とした源平の兵士数千人の供養をし、その戦史を語り継ぐために建てられたものだったのである。全く予想だにしなかったこのサプライズに私は思わず看板から視線を上げ、目の前に広がる壇ノ浦海域をまじまじと見つめてしまった。


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