第16話 新幹線にて九州初上陸~4時間かかったぞ編

 線路は続くよ、どこまでも……そんな童謡のフレーズが頭の中を延々と駆け巡る。地元・新横浜を出て既に2時間、私達夫婦は未だ新幹線に乗り続けている。そしてその旅路はまだ遠く遥か、博多まで続くのだ。時間にしてあと2時間位だろうか。

 そもそも関東から九州に行くのに新幹線で、というのが間違いの始まりである。関東の都市から九州に向かうのなら、普通飛行機で行くものだ。料金だって同じくらい、むしろ飛行機の方が安いかもしれない。しかも自宅最寄り駅からは羽田空港行き直行バスも運行されているのだ。普通の感覚を持った人間ならば間違いなく飛行機を使うだろう。

 しかしここまで便利な交通手段がお膳立てされているにも拘らず、鉄ヲタ夫は可能な限り『鉄道』という交通手段にこだわる。新横浜駅に行くにもバスがあるのに、わざわざ乗り換えが必要な電車を使って新横浜駅まで出向くほどだ。しかも四泊五日の大荷物を抱えた状態で、である。


「ああ~疲れた。でもまだ半分なんだよねぇ」


 新横浜までの疲労は新幹線の座席に座っているうちに癒えてきたものの、座り続けているというのもまた疲れるものである。たまに伸びをしたり、トイレに行くなりして身体を動かしてはいるるが、限られたスペースでは動かせる部分はたかが知れている。

 そんな過酷な長旅でも、否、長旅だからこそ嬉しがる人間が私の隣に座っていた。どうやら今回の旅の初っ端から新幹線にうんざりするほど乗車できるのが嬉しいらしい。だがこれはあくまでも現場に行くための移動手段であって、目的じゃないはずだ。

 目的地に到着する前に既にぐったりしている私だったが、そんな妻の様子などお構いなしに、旦那は追い打ちをかけてくる。


「お昼は門司でカレーにするから検索しておいて♪」


 そこまで事細かにお昼のメニューを決めているなら予め調べておけよ、このバカ亭主。私は心の中で毒づきながら、最近購入したばかりのスマホで検索を始める。その横から旦那が更なる注文をつけてきた。


「あ、シーフードカレーがあるところね。勿論門司名物焼きカレーで」


 いや、そこまできっちり食べたいもののヴィジョンが決っているなら自宅で幾らでも探すことが出来ただろう。あわよくば割引クーポンだって手に入れられたかもしれないじゃないかと心の中で文句を垂れつつ、私はスマホで『門司 焼きカレー』を検索する。すると意外なほど沢山のお店が面に現れた。その中の一軒が駅からかなり近く、旦那の好きなシーフードもあるらしい―――それを確認すると、私は旦那にスマホ画面を見せた。


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