第2話

枕元の目覚ましが私を今日も起こすべく泣き喚く。

それをいつもの調子で私も叩き止めると、その時計の文字盤を寝ぼけ眼で見つめる。


目覚ましをセットした以上はいつもと同じ時間、すなわち八時半。

いつもの調子で身支度と朝食のためにのそのそと寝室を出て隣の衣服置きと化した別の部屋に歩く。

今日は何を着ようか、などと考えて頭を起こす。



社会に生きる人間なんかは、もう満員電車に揺られる頃か。

それとも有給でも取って布団に篭っているか。

はたまた家族のために疲れた体に鞭をひっそりと打っているか。


ただ一日の過ごし方ですら、こうして一人ひとり千差万別である。

その中で、やりたいことを仕事にするというのは贅沢であり

ましてやそれでいて自由を満喫しているのだから、贅沢者もいいところだろう。

だからせめて、店を訪れる人にもほんの一時を楽しんで欲しいから

原価より少し高い程度に値段を抑えているが、税率が上がったらどうしよう。


生きるためのたくわえは十分あるし、博打なんてせいぜい昔の英語の教科書にあった

とある老婦人よろしく、宝くじを月に五枚買う程度だ。


だがそれでも、消費税が上がれば値上げを余儀なくされるだろうか。

ほんの十円でも黒字ならともかく、赤字はまずい。

ある意味負の連鎖の引き金である以上はこのあたりはしっかり考えないといけない。



と、そんな事を考えているうちに手には今日の衣装が収まっていた。

そのまま洗面所に向かって着替えに入る。


パジャマはどうせ今日も着るのだから床に落ちない程度に適当に脱ぎ捨てる。

開店は十時からとはいえ、朝食を用意する以上はさっさと着替えて準備をせねば。

まあ、店の定位置でのんびりするのもある意味仕事の内であるから

結局は店内で一人で食べることになるのだが。


さて、今日の朝は何を食べようか。

……そうだ、なんとなくカレーが食べたかったんだ。

材料は寝る前に準備しておいた筈だから厨房にそのまま向かおう。




生活圏内と店内を隔てる扉を開けて、そのまま厨房に歩を進める。

下ごしらえした材料を取り出し、キッチンの棚からカレー鍋を取り出す。

……ランチメニューにもカレーでも出そうか。

どうせ昼はカレーライスがカレーとトーストになるくらいの変化だろう。


こういった変化もあながちばかにできないのだが、そこはさておいて

カレールーの確認を行う。これがないとカレーは逆立ちしたってできやしない。

乾燥棚の扉を開けて、中を見渡す。


……そういえば、この乾燥棚は両側が開くからそのせいか

ガタが来るのがどことなく早く感じる。

そんな事を感じていたせいか、ガコンとあまり聞きたくない音が響く。


あわてて番の部分を見てみると、どうやら両開きのために磁石の部分から離れただけだった。

とりあえず一安心してカレールーを取り出すと番の部分がしっかり締まるように

乾燥棚の扉を押し込む。

まだ使えるだろうが、買い替えも考えようだろうか……。


とりあえずは思考を切り替えて、カレーを作って食べて

今日の開店に備えようじゃないか。

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生きるたそがれ、人生の岐路 蒼筆野猫 @blue_cat

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