第363話 「雑草」




 暖かくなってくると、待ってましたとばかりに鉢植えに雑草が生えて来て、それを駆除するのにやたら忙しくなる。抜いても抜いても、またすぐに生えてくる。

 土の表面だけでなく、鉢の底から外に向かって生えてくる。

 どうやって底に種が潜りこんだのかわからないが生えてくる。しぶとい。しぶとすぎる。

 このあくなき生命力。植物が知性を持って進化しなくて本当に良かったね。土と水と陽光さえあれば生きてゆけるんだもの。

 人間なんてあっという間に駆逐されて滅亡だよ……なんて思ったりする。


 北川冬彦氏の詩「雑草」も力強い。


 ***


 雑草が 

 あたりかまわず

 伸びほうだいに伸びている。

 このけしきは胸のすく思いだ、

 人に踏まれたりしていたのが

 いつのまにか

 人のひざを没するほどに伸びている。

 ところによっては

 人の姿さえ見失うほど

 深いところがある。

 このけしきは胸のすく思いだ、

 伸びはびこれるときは

 どしどし伸びひろがるがいい。

 そして見ばえはしなくとも

 豊かな花をどっさり咲かせることだ。


 ***


 圧倒されて胸のすく思いをしながらも、私は今日も無言で雑草を抜く。

  

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