第362話 「パンの話」



 柔い夢と固い現実に迷う時、いつも吉原幸子さんの詩「パンの話」を思い出す。

 思い出すと読んでみる。


 ***


 まちがへないでください

 パンの話をせずに わたしが

 バラの話をしてゐるのは

 わたしにパンがあるからではない

 わたしが 不心得ものだから

 バラを食べたい病気だから

 わたしに パンよりも

 バラの花が あるからです


 飢える日は

 パンをたべる

 飢える前の日は

 バラをたべる

 だれよりもおそく パンをたべてみせる


 パンがあることをせめないで

 バラをたべることを せめてください


 ***



 パンがなくては生きられないし、バラがなくても生きられないね。

 バラを見てもお腹は膨れず、お腹が空いてはバラの花も愛でられないね。

 結局パンを食べるけど、バラが見れないなら美味しくないね。

 砂のようなパンを噛んでいても生きているとはいえないね。


 不心得もののせいか、バラの美しさばかりに目がいってしまう。

 遠い空の雲を掴むようなバラなのに。


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