第355話 「散る日」




 東京はもうすっかり葉ばかりになってしまったけれど、日本を北上して追いかけていけばまだ桜を観ることができる。

 逃げるように散っていくのね桜。

 必ず散るものと知りながら、惜しんで追いかけてゆく我らの心。


 金井直の詩「散る日」を噛みしめる。


 ***


 さくらの花が散る 惜げもなく己れを捨てるすばらしさ

 うれい顔がそれを眺める いま見たときから散りはじめた

 ようなはなやかさを


 見ているあいだに散り果ててしまいそうな風情

 こんなにゆたかな心がどこにあろう 誰にも見られない

 うちから散っているのだ


 そしてまた 落花に酔った者たちが去ったのちも

 さいはてにむかって散りつづけているのだ


 ***


 最果てとはどこかな。北かな。海も越えてゆくのかな。

 一年かけて地球をぐるりと一周して、また散るために帰ってくるのかな。


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