第354話 花は贈れども
友人の誕生日のお祝いに鉢植えの花を贈った。
私は常々、花束等の切り花よりも長く楽しめる鉢植えの方が好きである。しかし、自分はよくても貰った方は世話をしなくてはいけないし、興味がない人にとっては面倒くさいだけ。
なので同じ趣味を持つ人以外に贈ることはない。
お花は好き、貰うのも好き、でも「自分で育てるよ!」という人は意外と少ないのだ。
ただその友人は一年前くらいから園芸を始め、育てた花の写真などもSNSにアップしているし、事前に「プレゼントに鉢植えどう?」と聞いたら「(育てるのが)難しくないのなら欲しい」という返事だったので、店から直送で贈ることにした。
園芸店に行っていそいそと花を選ぶ。
いっぱいあって目移りしてしまう。いくら綺麗だからといって薔薇や菊を贈るわけにもいかないし……。上級者向けの子は、美しいがとても難しい。
割と放っておいても勝手に育つし咲くものならと、紫陽花にすることにした。
紫陽花も品種改良が進み、逆輸入されたものも含めて沢山の品種がある。
友人は打ち上げ花火が好きなので「墨田の花火」という紫陽花にした。それほど珍しいものではないけれど、なんといっても名前がいいではないか。名前重要。好きなものと重なるなら、よーし面倒みてやろう……ってならないかな。そこはわからないけれど。
「墨田の花火」にしても沢山株があったので選んで、メッセージカードを同梱してもらい、包装も頼んだ。
翌日、友人のSNSに記事が上がっていた。
「仕事でとてつもなく嫌なことがあって心がボロボロになって帰ってきたけど、お花が届いて嬉しかった」という内容だった。
少し迷った末に、届いて良かったという旨のコメントだけ書いた。
きっと辛い思いをしているのだろうに、そのことについては慰めのことばが思いつかなかった。そんな気兼ねは必要ないのに、ことば一つにどうしても上手であろうとする。
物は贈れても、気のきいたことは何一つ言えない。そういう自分はなんだかとても寂しい。
だから花を贈るのかもしれない。私の至らない部分を、花に補って欲しいのかもしれない。
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