第332話 「うたふやうにゆつくりと……」
米をザカザカと研いで、ご飯を炊いている間に詩を読む。
何気ない生活の隙間をことばでチクチク縫っていくような。
短時間で手軽に読めるのがいいよね。
立原道造の詩は、本当に好きだ。
***
日なたには いつものやうに しづかな影が
こまかい模様を編んでゐた 淡く しかしはつきりと
花びらと 枝と 梢と――何もかも……
すべては そして かなしげに うつら うつらしてゐた
私は待ちうけてゐた 一心に 私は
見つめてゐた 山の向うの また
山の向うの空をみたしてゐるきらきらする青を
ながされて行く浮雲を 煙を……
古い小川はまたうたつてゐた 小鳥も
たのしくさへづつてゐた きく人もゐないのに
風と風とはささやきかはしてゐた かすかな言葉を
ああ 不思議な四月よ! 私は 心もはりさけるほど
待ちうけてゐた 私の日々を優しくするひとを
私は 見つめてゐた……風と 影とを……
***
妙にウキウキし、妙に心が沈む。
何が起きなくても心が優しくなったり、急に悲しくなったり、4月は本当に不思議な月だ。
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