第253話 見られているものだなあ




 先日、長野から友人が遊びに来た。

 地方から上京してくる友人と都内を観光して回るのはとても楽しい。

 折角来てくれるのだからと思いお土産を用意したのだが、バタバタしていて選んでいる暇がなかった。結局飛び込んだ伊勢丹でとらやの羊羹を買った。

 老舗のお菓子なので間違いはないだろうし、酉年限定の可愛いパッケージの羊羹を買ったのだが無難に走った感は否めない。長野でもとらやは普通に買えるだろうし、友人が羊羹を好きなのかもわからなかった。


 当日は無事に会えて都内のイベントやカフェを巡り、明治神宮に初詣に行ったりもして楽しいひと時を過ごした。

 友人もお土産を用意してくれていてありがたく受けとったのだが、梱包されていたのと荷物が多かったのとで中身は確認しなかった。

 後日、お土産のことを思い出して開封してみると、信州のりんご酢(飲む酢)だった。

 あれ? と思った。私は飲む酢を牛乳や炭酸水で割って飲むのが好きなのだが、そのことを友人に話したことはなかった……はずだった。

 偶然だろうか。いや、偶然でお酢が来るものなのだろうか?


 メールでお礼がてら「私、お酢を飲むのが好きなの話したっけ?」と聞いてみたところ「以前、行ったレストランで酢のドリンクを飲んでいたので好きなのかと思って(買った)」という返事が返ってきた。正直、たまげた。

 以前行ったレストランで酢のドリンクを飲んだというが、それは去年の8月の話である。

 というか、私自身酢のドリンクを飲んだことなど綺麗さっぱり忘れていた。

 当時、友人がレストランで何を飲んで食べていたかも思い出せない……。なのに、先方はそれを覚えている……。尚且つ、好きなのかもと考えてお土産を選んでくれている。

 いやあ……他愛のないことでも案外見られているものなのだなと思った次第である。

 見れる時に見ているのではなく、見ている人は見ていると言うべきか。


 ついでにメールには「羊羹好きなので嬉しかった。美味しかった」とさりげなく書かれていて、ますます彼女のことが好きになった。

 自分の雑な生活ぶりや態度が恥ずかしい。爪の垢を煎じて5.6杯飲みたい。




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