第119話 メモにおどることば



 本を読んでいて気になる単語や熟語があると、その場で書き写すようにしている。

 純粋にそのことばを使ってみたいと思うのだ。

 力を入れてボールペンで書く。手で書かないと覚えない。


 目の前の四角い付箋には、漢字2~3字が僅かな感覚をあけてびっしりと書き連ねてある。

玉響たまゆら」「雲母きらら」「風信子ヒヤシンス」「玉桂たまかつら」「久遠くおん」「幽暗ゆうあん」「蝋石ろうせき」「鳳声ほうせい」「綾戸あやべ」……

 意味は様々、声に出しても優しく、殊更に美しいことばたち。


 今日見つけた気になることばは、「衰滅すいめつの美」。

 哀れに弱々しく、儚いものに美を見いだす心。庇護したとしても、遠からず散りゆくもの。

 人であれ、物であれ、涙ぐんで見つめる先に命の終わりが見えている。


 残念なのは、こういった美しいことばに相応しい流麗な文章が書けないことである。

 なのに、やっぱり付箋に書いてしまう。憧れゆえに、どうしようもなく。

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