第72話 御朱印集め




 今年の4月から御朱印集めを始めた。

 前から少しずつ集めてはいたのだが、肝心の御朱印帳を持っていなかった。

 気に入ったものしか使いたくない性分なので、通販も含めて色々検討し、あれこれ探してやっと気に入るのが見つかった。それにもらった御朱印を糊で貼りつけた。

 貼ってみてから、やはり直に書いてもらう方がいいなと思った。


 御朱印にも色々あって、基本は墨字に朱印だけれど、和尚さんの趣味なのか絵が描いてあるものもあるし、朱印も寺社ごとにとても凝っている。季節ごとのものあり、イベント限定のものありで非常に楽しい。珍しいものほどコレクター魂をゆさぶる。

 買ってきてもらうこともできるけど、できれば自分の足で現地に行ってもらってきたい代物である。

 印刷でなく全て手書きで、必ず日付が入り、一つとして同じものがない。

 パラパラとめくって眺めていると、赤と黒のコントラストがなんとも美しく、もはやこれは一つのアートだなあとも思う。


 もともと御朱印はお経を書き写し、お寺に納めた証だった。

 それを知ってからは、写経もしたいと思い始めた。

 4月に京都の西芳寺(苔寺)で、初めて般若信経の写経体験をした。

 筆で用意された下書きをなぞっていくだけだったが、書いているうちに心が穏やかになり、雑念が取り払われていくような感じがした。とにかく静かだったし、静謐が心地よかった。

 一時間近くかかったけれど、最後の一字まで集中して書くことができた。願い事もしっかり書いた。写経は、叶うなら一日中やってもいいと思った。

 いつかは本当にお寺に写経を納めて、御朱印をもらいたいものである。


 まだ一冊目だけど、世界に一つしかない御朱印帳は死んだあとに残しても仕方がないから、棺桶に一緒に入れてもらいたい。

 祈りの数だけきっとご利益があると信じて。


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