第62話 山登りと書くことはどこか似ている②




 何事も形から入る私は山へ誘われると、まずはウェアからリュック、小物まで山用品一式を揃えた。

 靴は某スポーツブランドに勤めている友人が自社製品の良いものをくれたので愛用しているが、その後季節ごとのセールだの、特別ご優待だのに呼ばれて散財した額を考えると、もしかしたらこれは新規客を獲得するための戦略だったのかもしれない。

 靴があるととりあえず出かけることができるから、最初は適当な格好で山に入るが、いざ登り始めるとなかなか大変で、これは便利、あれも必要と思ってしまい、結局後日買いにいくことになった。

 暑くなれば夏物が快適だし、涼しくなってくれば厚手のものが欲しいというかんじで現在も少しずつ増えている。

 結構な金額になってしまったので、「元を取るためにも登らねば……」というせこい気持ちもあって、せっせと登山もどきをしている次第。



 山登りと書くことがどこか似ていると思ったのは、登り始めて3回目くらいだろうか。

 運動不足なこともあって、毎回とにかく上りはきつい。

 急勾配の坂も階段も、狭い道もヒイヒイ言いながら登る。飲料のペットボトルを幾つも詰めたリュックは重いし、暑いし、汗がひっきりなしに出て気持ち悪い。

 常にゼエゼエハアハア、息も絶え絶え。

 ぬかるんで足場が悪いところも沢山あって、滑ったり転んだりもするし。背中や足も段々痛くなってくるし。本当に辛い。しんどい。

 一歩一歩登るたびに「……なんでだ? なんで私はこんなところにきて、わざわざこんな辛いことをして、辛い思いをしているんだろう。嫌だ。もう嫌だ。金輪際登山なんてやらない。絶対にやらない!」と思う。

 その時は本気でそう思っている。今回限りでやめようと、引退を決意する。


 しかも黙っていればいいものを、「辛い、だめ、無理、ヤバイ」と泣き言を言いながら登るので、同行者からするとさぞかし鬱陶しい人間だろうなあと思う。

 けれど、なんだかんだ励まされたり、慰められたりで会話したり、しりとりしたり、ヤケクソ気味に歌ったりしていると気が紛れるし、やっぱり皆に迷惑はかけられないと思うし、そうなると必死についていくし足も動く。

「あ~頑張れと言われるし、一人で下山するのも嫌だし、もうちょっとやってみるか……」と上手い具合に乗せられて登っていく。

 これがもし一人で登っていたら、たぶんすぐに諦めて引き返すと思う。



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