第53話 初めてインターネット上で詐欺被害に遭う③
私にメールをくれたユーザは、全く面識もなければ掲示板上の交流もない人たちだった。
メールの内容は、大体どれも同じだった。
「最近、この掲示板や他のサイトでも、高額な代行料などを提示して多数の人間にグッズを代理購入させ、欲しい物(転売できるものか?)を手に入れた人や手数料の一番安い人とだけ取引する。その他は一切連絡せず、お金も払わないで逃亡する詐欺が横行している」
「自分も同じような代行をしたが、購入して報告したら連絡が途絶えた。何か知っていることはないか」
「別の名義、別のアカウントだが書き方がGと似ている。同一人物ではないかと思われるので、ホスト名やIPを教えて欲しい」
というものだった。
全員がG、もしくはGと同一人物と思われる人物の詐欺の被害者だったのである。
私が書き込みをしただけでこれだけメールが来るのだから、実際はもっといるのだろう。
一件一件は数千円でも、塵も積もれば~で数十万の損失を与えているのかもしれない。
こんなにあちこちで被害があったとは知らなかった。それも今に始まったようでもない。
明らかに詐欺の常習である。
これが400万だの4000万だのの損害だったらそれなりに事件になると思うが、4000円くらいでは訴える方がお金や時間を取られるので、皆泣き寝入りするしかない。そこにつけこんだ悪事である。
今、冷静にGのアカウントを見てみると、代行の書き込みをしたその日にアカウントを取得しているし、書き込みも代行の件のみ。
個人情報を一切明かさず、やたらに急かしてきたことといい、怪しい要素は沢山あった。
それを早い段階で不審に思わなかったことが悔やまれた。
まったりと交流できて楽しい場所だと思っていた掲示板が、なんだか犯罪の巣窟のように思えてきた。がっかりである。勿論、掲示板や運営者に非はないのだけれど。
被害者の中には「先日のイベントに行けなかったので、良かったらあなたの購入したグッズを買い取らせて欲しい」という人もいた。
正直なところ、アーティストの作品は好きなものの、グッズは全くもって不要だった。
大事にしてもらえる人のところに行くのが一番とも思ったけど、ここで第三者にグッズを渡してしまうと、Gとの契約でもない約束は反故になるし、今後何かあった時に自分の行動が証明できない。
やはりグッズとレシートは持っておいた方がいいだろうと思い、丁重にお断りした。
とにかく詐欺に遭ったのはほぼ確定である。
他の人に連絡が来ない以上、私のところに来るとも思えない。
A賞、B賞を買った人がGに渡してないことを祈るしかない。
それでも一応、順を追ってできるとこまでやってみようと思い、掲示板に詐欺報告を出しておいた。
これを出すと、運営者がGがアカウントを消せないようにロックしてくれる。書き込みも削除できなくなる。
もし今後、警察の捜査が入った際はIP開示などに使われるだろう。
本当に今更だが、見ず知らずの個人間の取引は怖い……。
相手のことを何も知らないまま金銭取引をする危うさを、私も長らく忘れていたように思う。
人間の心理とは不思議なもので、周囲がどれだけ詐欺の被害に遭っても、忠告されても、何の根拠もなく「自分だけは騙されないだろう」と思ってしまう。
私もそうだった。何故多くの人が振り込め詐欺だの、明らかに怪しい投資話だのに引っかかるのか不思議だった。
けれど、それは間違いだった。
これまで無事だったのは、私が賢く、しっかりしていたからではない。単に運が良かっただけなのだ。
今回の件があったので、もう親しい友人以外はどんなに頼まれても代行をするつもりはない。
残念だけど、しがない小市民のチンケな善意も利用されるような世の中じゃ……ポイズン!
と悲劇の主人公ぶってるわけでもないのだが、心の平穏の方を優先したい。
ネット上の取引は、用心に用心して利用することをお勧めする。
本当に、どこに罠が潜んでいるかわからないですぞ。
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