第28話 「控えめに言って〇〇」が控えめに言って全然控えてない件




 ネットで「控えめに言って〇〇」という表現をよく見かけるようになった。

 控えめに言って、いかにも日本人らしい日本語だと感じた。

 主に人や物を褒める際に使われるようで、「控えめに言って神」「控えめに言って最高」などなど。

 控えめに言って神なのだから、大袈裟に言えば神を越えてしまう。控えめじゃない最高ってなんなんだ。よくよく考えれば意味がわからないが、絶賛であることは間違いない。反対にネガティブな言葉にはあまり使われないようである。


「控えめに言って」という言葉自体は強調であり、安易に例えるなら英語の「very」に当たると思う。「とても神」「とても最高」でも良い気がするが、そこを控えめとするあたりが日本特有の文化に思える。

 謙虚を美徳とする我々の社会では、個人の主張は煙たがられる傾向にある。

 過去に私も「はっきりものを言うね」「意見がしっかりしてるね」と言われたことがあるが、これは一見褒めているようで全く褒めていない。

 日本で円滑な社会生活を送りたいなら、大事なのは大多数への同調、調和、追従、迎合。むしろ「黙って言うことを聞け」というニュアンスすら含まれている。

 はっきりものを言うのは避けた方が無難である。

 出る杭は大抵打たれる。それが現実だ。


 だが、どうしても抑えきれない衝動があり、自分の思いを主張したい時もある。

 そういう時は主張の前に、「控えめに言うと」と前置きするとカドが立たず、面倒な争いを回避できる(ような気がする)。

 こちらは始めから一歩下がって、謙虚に意見を述べているのだ。

 このしおらしい態度なら、糾弾する側も気がひけてしまうだろう。過激な表現も、控えめに言うなら許される。

 つまり、反対意見から攻撃されないために、あらかじめ放つ保険、安全弁みたいなものなのだろうと思う。

 発言すら常に周囲に気を使う、それが骨の髄まで染みこんだ言葉だと思う。


「控えめに言って」の元ネタはなんなのだろうと思って調べてみたが、決定的なことはわからなかった。

 荒木飛呂彦さんの漫画「ジョジョの奇妙な冒険」に出てくる台詞「俺は控えめに言ってもミケランジェロの彫刻のように美しい」が有力らしい。

 この漫画の台詞からして、控える気は全くない。

 当人は自分の美貌に自信満々なのだが、「控えめ」という魔法の言葉から滲み出る「謙虚っぽさ」が上手く機能して鼻につかないのだ。


 便利な言葉であり、現代日本語の哀愁すら感じさせる。

 私も控えめに言って、「控えめに言って」を上手く使っていきたい。

 うん、なんか謙虚な人格っぽくなったぞ!


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