第27話 掃除をするために人を呼ぶ




 掃除が嫌いである。苦手とかいうレベルではなく、大嫌いである。

 料理や裁縫はそれなりに好きだし、洗濯や洗いものもまあまあなのだが、掃除だけはどうしても好きになれない。お金が勿体ないのでやらないが、できることなら掃除だけは全てプロにお任せしたい。

 やる気がないので必然的に汚部屋になってゆくが、虫がわくのが嫌でゴミは逐一捨てるし、実際物が散らかって足の踏み場もないほどの惨状にはならない。そうなる前には、嫌々ながらも掃除をする。

 嫌で仕方ないので、掃除を始めるまでの時間は長い。

「ご飯を食べたら」「宅急便を受け取ったら」等あれこれ言い訳しては、先へ先へと引き伸ばす。気がついたら、ウィキペディアで「北欧神話の神々」などを読んでいたりする。

 いつの間にか日も暮れかけていることに絶望し、「寝ている間に小人さんが掃除してくれないかな~」と妄想を始める。

 現実逃避の延長で夜になってしまうと、「掃除機の音が近所に迷惑だから」と理由をつけて明日に回す。

 洗濯機は夜でもガンガン回しているし、防音はばっちりなので近所迷惑にもならないのだが、それでもやりたくない。本当に掃除が嫌いである。



 しかし、掃除はやらなくてはいけないのである。

 人並みに綺麗な部屋に住みたいというのもあるが、部屋が汚くなると健康を損なってしまう。

 学生の頃に随分と風邪が長引いたことがあって、一ケ月以上経っても咳が止まらなかった。元から気管支が弱いのだが、咳とくしゃみと鼻炎で夜も眠れないほど苦しんで、苦しみ抜いた挙句、まさかと思って始めたのが掃除。

 翌日の朝からフラフラしながら掃除機をかけ、雑巾で床や家具を拭き、布団を干し、シーツを取り替え、一日かけて徹底的に掃除したら咳は嘘のように止まった。

 体調不良はハウスダストが原因だったのである。

 もうあの苦しみは懲り懲りなので、それ以来、嫌々ながらも定期的に掃除するようになった。


 今はどうしてるかというと掃除をしなければならなくなると、人を呼ぶことにしている。客が来るから、掃除をするのではない。掃除をやらなくちゃいけないから、客を呼ぶのである。まさに逆転の発想。これを思いついたときは本気で天才じゃないかと思ったが、そんなことはなかった。

 この方法が可能なのは、私が見栄っ張りな性格だからである。

 他人に少しでも良く思われたいのである。インテリア雑誌に出てくるようなお洒落な部屋は無理だが、地味でも小綺麗な部屋に住んでいるイメージにしておきたい。

 間違っても友人のブログやSNSに、「Yの家に行ったら、埃とゴミだらけの汚部屋でちょ、マジヤバwww ドン引きwww」などと書かれては困る。


 なので、いつも約束することで自ら退路を断つ。

 人が来るとなると、それはもう必死こいて掃除をする。ウィキペディアどころか、ネットも見ない。忙しい時は、前日の夜中に目を血走らせて掃除する。

 100均にお掃除用品を買いに行き、ゴミは全部捨て、溜まったチラシも捨て、トイレには芳香剤を、居間には消臭剤を置く。茶しぶを落とすため、湯呑みやカップを漂白剤につける。カーテンにはファブリーズ。


 さらにナチュラルにこじゃれたかんじを演出するため、ベランダの鉢植えで一番見目のいいお花ちゃんを室内に持って来てさりげなく飾る。

 鉢植えを中に入れると大抵虫もついてきてしまうのだが、それは虫にきびしく人にやさしいキンチョールジェットで抹殺する。

 どれも一気にやるのでものすごく疲れるが致し方ない。


 そして当日になれば、「アテクシ、いつも清潔な空間で日々を過ごしてますのよ」みたいな顔をして、客を出迎える。

 全ては演出なのだが、結果的にはまたしばらく綺麗な部屋で暮らせるので、良いことだと信じている。


 もし何かの拍子に我が家へ来ることになったら、「コイツ、掃除しなくちゃいけない状況に陥ったんだな……」と思ってくれればいい。実際、そのとおりなので。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る