第8話 3月生まれに悪い人はいない
私は「3月生まれに悪い人はいない」と思っている。
特に根拠はない。これまでの人生経験から、無責任に漠然とそう思っているだけである。
あえて理由を言うなら、自分が3月生まれだからだろうか。実に身も蓋もない。
「出身校が同じ」「出身地が同じ」等々の理由で生まれる「○○のよしみ」の○○に、「3月生まれ」が入っただけのことである。大雑把な身内(?)びいきだ。
要するに、これまで3月生まれから嫌な目に遭わされたことがない!
……と声を大にして言いたいところだが、確率的にそれはありえない。
一年は12ヶ月。出会う人は12分の1の確率で3月生まれ。私は天涯孤独でも引きこもりでもなく、それなりに日々社会と関わって生きている。いいこともあれば、嫌なこともある。年によって月によって出生数の差はあるだろうが、3月生まれの人間にも、絶対に嫌な目に遭わされてきたはずである。
だが、憶えていない。今現在も思い出せない。とっとと忘れてしまったか、嫌な相手の誕生月を知る機会がなく、また知りたいとも思わなかったのだろう。とにかく思い出せないし、あえて思い出したくもないので、なかったことにしている。
似たような意味で「うお座に悪い人はいない」とも思っている。
3月生まれ=強制的にうお座である。純粋で繊細なロマンチスト、芸術家肌ということにしておきたい。完全に星座占いのイメージに毒されているし、13星座だと実はうお座じゃなくて水瓶座らしいのだが、都合が悪いのでスルーする。
私は3月生まれのうお座である。水瓶より魚の方がいいのである。
見た目が涼やかだし、綺麗な魚も多いし、食べても美味しいしね。
3月生まれというだけで親近感がわくので、必然3月生まれ同士で慣れ合うのも大好きである。
まずSNSなどで誕生日おめでとうメッセージを送り、送られ、誕生日会があれば行って便乗祝いをしてもらう。大体において羽目も外す。浪費しても飲みすぎても食べすぎても「まあ、誕生月だからね」で済ませる。
魔法の言葉ならぬ魔法の月、3月。明らかな偏愛、自己愛、えこひいき。楽しい。春の兆しが満ちる月。
同士で集まれば、各自用意したプレゼントを贈りあい、美味しい酒を飲み、肉を食べる。
会話といえば、近況、同じ日に生まれた有名人。誕生色。誕生花。誕生石。誕生星。
「やっぱ3月は最高だよね」「あったかくなるしね」「桜も咲くしね」「同学年で一番若かったし」などとひたすら3月に生まれたことを喜び、持ち上げまくる。
「強風が吹く」「気温差が激しくて体調を崩す」「地獄の花粉症」「別れの季節」「いつも春休みで、同級生に祝ってもらったことがない」ことはスルー。そんなこと言わなくても、皆わかっている。だって、3月生まれだから。
気のおけない3月生まれの友人たちと楽しい時間を過ごすたびに思う。
やっぱり3月生まれに悪い人はいないわ~!
うお座にも悪い人はいないわ~!
調子に乗って「肉好きにも悪い人はいないわ~!」と言うと、「いや、いるから」と一蹴される。
それもまた、愉快。
いや~3月に生まれて良かった。なんといっても3月は最高。もはや宗教。
3月に生まれたので、ぜひ死ぬ時も3月でお願いしたい。
風と共に去りぬ。桜と共に散りぬ。大体そんなかんじで、ロマンチック臨終。
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