第7話 文章がかたい




 色んな折に、自分の書いた文章をプロに読んでもらう機会があった。

 そこでよく言われたのは、「文章がかたい」だった。

 おそらくは、文中に漢字と断定形が多いからだろう。

 元々、漢字変換は好きで「しばらく」と書けばいいものを、あえて「暫く」などと書いたりする。

 その方が文面が引き締まる気がするのだが、自己満足であることもわかっている。

「直した方がいいですか?」と尋ねると、「これはあなたの個性なのだから直さなくていい。それに直そうと思って直せるものじゃないよ」と言われる。

「良くも悪くも、文章には作者の人格が滲み出る。隠せるものではない」とも。


 そうは言われても迷いがあった。

 ……このままでいいのだろうか。

 読む側に「高圧的」「とっつきにくい」「偉そう」「でも、こいつは頑固だから何を言っても無駄そう」と思われてないだろうか。実際、それに近いことは何回も言われた。

 揶揄もあったし、悪意を感じることもあった。

 けれど、言ってくれた人の正直な評価であるとも思った。

 もっと別の表現があるのではないだろうか。

 もっと上手く書けるのではないだろうか。

 随分と悩み、試行錯誤しながら書いてみた。

 好きな作家の小説を鉛筆で写してみたり、流行作家の書き方を真似てみたりした。

 ……答えは出なかった。余計に苦しくなっただけだった。


 日本語の、特にひらがなの優しさを出したいと思っていた。

 漢字やカタカナと違って、ひらがなは丸みがあって柔らかくたおやかな文字である。

 それまで「事」「物」と書いていたのを「こと」「もの」と開いてみると、文章が優しげになった。読みやすいように、句読点を増やした。冗長になりがちな文を簡潔にした。これらはやって良かった。


 最近では開き直ってきて、結局は自分の書きたいようにしか書けないと思っている。

 好かれたいとは思う。日本語話者は全世界の人口60億のうち、わずか一億数千万人だけれど、一人でも多くの人に愛される文章を書きたいと思う。

 同時に諦めの気持ちもある。

 創作でなくとも、万人に好かれるのは不可能である。

 高望みをして無駄に足掻くより、好きだと言ってくれる人を大事にしたい。

 どっちもどっちで揺れながら今日も書いている。


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