第8話
そういえば、彼の本当の年齢を知らない。今度店に行った時に、訊いてみよう。美月はそう決めた。
典子に言われて気づいた、彼が好きという気持ち。年上の男性を好きになったことは、人生初だ。どうしていいかわからない。年の差なんて、と典子は言うけれど、年が離れすぎていたら、こんな地味なJKなんか相手にされないかもしれない。でも、せめて実年齢さえ確かめられれば、諦めがつくかもしれないのだ。
そして、美月は一人で再び、マイ・プリンスにやって来た。
既に6月を迎えていた。夏服の季節だ。美月は、上はイースト・ボーイで買ったオフホワイトのポロシャツ、下は同じくイースト・ボーイのタータンチェックのスカートを履いていた。ソックスはネイビーに赤の刺繍が入ったもので、それもイースト・ボーイだ。ローファーは黒。
店には玲子はいたが、賢太郎は休みだった。いつものようにカルピスを飲みながら、早速本題に入る。
「あの、玲子さんと賢太郎さんって、何歳なんですか?」
いきなりの単刀直入な質問に、玲子は、
「幾つに見える?」
笑って返す。
「あ、ええと…」
美月はポニー・テールを揺らしながら、言葉に詰まる。玲子の見た目は30歳くらいだが、正直に言っては失礼だろうか。そんなことが頭をよぎったのだ。
「ええと〜、玲子さん、25歳くらい、とか?」
「正解!」
意外だった。実年齢より年上に見ていたのだ。それは多分、玲子が老けているということではなく、15歳の美月にとっては、かなりオトナの女性に見えていたというだけのことだろう。じゃあ、20代前半と思っていた賢太郎ももしかして…。
「賢太郎くんは、18歳ね」
想像より若かった。
「え、もしかして、高校生?」
「ううん、大学生よ」
「そ、そうなんだ…」
思っていたよりも、年の差が近かった。大学一年。三歳差。これなら「イケる」かも…。あらぬ考えが浮かんできてしまい、顔が急に熱くなってきた。勢いで、今日不在の彼について、情報を得ようとしてしまう。
「彼って、付き合ってる人とか、いるんですかね…!?」
訊いてしまい、美月は俯いてしまう。
「うーん、そういう話は聞かないけど…というか、そうだ、いなそうな話はしてたかな」
「本当ですか…?」
「うん、てか、美月ちゃん、さては!」
玲子が悪戯っぽく笑う。
「そんなんじゃないです…」
「またまたー!」
火照った美月を、玲子はさらに攻める。
「彼のどこがいいの?」
「…自分でもよく、わからなくて…犬扱いされてるし…」
美月はそう言うと、言葉少なになる。
「もしかして、美月ちゃん、ドM!?」
「違います…!」
「あ、ゴメンゴメン。でも、いいじゃん。アタックしてみたら」
「え〜、玲子さん、助けてください」
「え、私は…」
なぜか言葉に詰まる玲子。
「え、どうしたんですか?まあいいや、私、頑張ってみます」
美月は深くは考えないことにした。
制服JAZZとマイ・プリンス!? saitani @meu
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