ホットミルクは悪夢にうなされない

@touka579

第1話 負けられない!

 今、この町は悪夢にうなされる者であふれていた。


『ふみいぃぃぃぃぃん!』


「きゃあああああっ! 愛らしくも凶暴な魔物が、その柔らかそうな手で襲い掛かってくるわーっ!」

「ぐはあっ! 痛くはない! 痛くはないが、逃げるしかない!」

「だ、誰か! あの愛らしい魔物を止めてええええっ!」


 まさに地獄絵図。人々は阿鼻叫喚の恐怖に襲われていた。


「こ、こんな時に彼女がいてくれれば……」


 誰かがそう呟いた。


「そこまでよ!」


 すると、そこに一人の少女が現れた。


「虫も殺せぬようなつぶらな瞳をして人を襲うなんて許せない! この私がしとめてあげる!」


 少女の名はネムル。この町の人々を悪夢のような魔物から守るために戦う魔法少女である!


『ふみぃ?』


「くっ! 愛らしすぎる! やっぱり、生身のまま直視するのは危険なようね。いいわ、見せてあげる! 私の本当の力を!」


『ふみっ!?』


「アイム・スリーピー!」


 説明しよう!


 彼女――ネムルは「アイム・スリーピー!」と叫ぶことで服装がパジャマに変わり、夢と安眠を司る戦士・ホットミルクに変身するのだ!


「ふふ、この私が悪夢を終わらせてあげる!」


 バーン!


 キラキラと輝く星をバックに決めポーズをとるネムル。否、ホットミルク。彼女は片手に低反発枕を持ち、フリフリとした白いコスチューム(パジャマ)に包まれていた。


「ああ、ホットミルクよ! ホットミルクが来てくれたわ!」

「やった! やったぜ! これでこの町は平和になるぞ!」

「あなたたち! 危ないから下がってなさい!」

「「「「「「「「「はぁ~い」」」」」」」」」

「ヤアアアッ!」


 走るホットミルク。そのスピードはあまり速くはない。


「まずは一発!」


 情け容赦のないホットミルク。ゆったりとした拳が悪夢のような魔物に炸裂する。


 ポフンッ。


『ふ、ふみぃぃぃぃっ!』


「いいわ効いてる! 正直、わたしの妹より力が弱そうだけど、なぜか効いているわ!」

「ああ、まるで卵すら割ることが出来そうにない拳だが効いてるぞ! いける! これはすぐに倒せるぞ!」

「がんばれホットミルク! その調子だ!」


 人々は魔物の悲鳴を聞いて舞い上がった。しかし、魔物も負けていない。


『ふうみぃぃぃぃぃぃぃっ!』


「きゃあああああああああっ!」


 そのフワフワと愛らしい尾っぽがポムポムペシペシとホットミルクに炸裂する。痛くはない。しかし、たまらない。かゆくて、たまらない。


「くっ! 少しはやるようね。甘くいていたわ……」


『ふみぃん?』


「でも負けられない。この町を――この町の人々を守るために、私は負けられないの!」


 この一撃にかけるしかない。


 ホットミルクは拳をやんわりと握り締め、やや大きく振りかぶった。


 そして。


 ポフン。


『ふっみぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?』


 威力は先の一撃とさほど変わらない。しかし、その一撃で魔物の断末魔がこだまする。理不尽だった。


「おやすみなさい……」


 パーン!


 こうして悪夢のような騒動は幕をおろした。


 ああ、ホットミルク。その枕は一体何だったのか、きになる者が増えた夜だった。

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