どんぐり戦記

こうして見てみると、この平野は平坦で川もあるから稲作に向く。住民が稲作をしないのは、付近の森のどんぐりが豊富だからだろう。

どんぐりを税として納める事は出来ないから、なんとしても稲作をしてもらわなければならぬ。良い知恵はないかと思案していると、占い師がやってきて、どんぐりの有害さを説くテレビ番組を作成したらどうかというので、作らせてみたら大当たり。大量のどんぐりが川に捨てられ、川を塞いで、川の水がみるみるたまり平地は湖になった。

どんぐり湖とでも名付けるかと若い国王はご満悦。川を湖にしたどんぐりはやがて芽をだし、どんぐりの大きな森が出来上がる。こうなると、どんぐりによる納税を唱える者もでてきて、そばには例の占い師がいる。ほどなく、どんぐりの有効性を唱えるテレビ番組が流され、この国の税にどんぐりが組み込まれ、やがて通貨として流通するまでになった。


どんぐりとは何か? 私には分からないが、稲を駆逐する勢いがある事は確かであり、長い隣国との戦争に勝てば、併呑された隣国にもどんぐりが行き渡るだろう。そして、ここに一人の天才が誕生する。名前はシ諸葛孔明。民治と軍事と発明の天才。彼によって統率された軍は強く、敵に勝つであろう事は明白で、忍者たちによって、敵国のあちらこちらでは、すでにどんぐりが蒔かれ、芽をだす春を待っている。まず、10年。それだけかけて敵を倒しましょう。孔明はそういって笑う。その頃には、敵国のあちこちにどんぐりの木が出来始めている。一国が他国をを併呑した歴史はかつてないが、一国が二国分。つまり倍になれば後は早かろう。勢いであり、数であり、どんぐりなのです。最後のどんぐりの意味が良くわからなかったが、諸葛孔明はそういう事を言った。

たぶん彼の言った事は本当で、十年を経ずして隣国は我が国の版図に入るだろう。その次の国を組み込むのはもっと早い。王も諸葛孔明も私より遙かに若く、この大陸は王と諸葛孔明とどんぐりに制圧されるだろう。立ちはだかる者も多いだろうが、稲作にくらべて、いっさいの世話を必要としない、どんぐりを主食にしている我が国の兵力動員数は稲作の国を遙かに上回り、どんな知恵者の機略だろうと、それを蹂躙していくだろう事は明らかだった。


ある時、どんぐりとは恐ろしいものですと、諸葛孔明は語ったが。私には、大きな争いようもない時代のうねりによって、国の運も、人の運も、すべて飲み込まれ流され動かされていくような気がした。

その真ん中のどんぐりがある。果たして、どんぐりに意志があるのか? それは私の想像を遥かに越える事だ。ただ、平坦な土地に赴任してきた時よりも私は遙かにどんぐりが好きになっているし、もはや米をたべようとも思わなくなった。


すべてどんぐりで良いではないか。

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ライオンの殺し方 佐藤正樹 @cha

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