第286話 お父さん涼羽とデートしたくてたまらないんだ!

「お兄ちゃん!こっち終わったよ!」

「ありがとう、羽月」

「次は盛り付けのお皿、用意するね!」

「うん、お願いするね」


美鈴、沙羅、そして出会ったばかりの外国人女性であるリリィを来客として迎え、非常に賑やかだった休日。

結局、美鈴も沙羅もリリィも高宮家の居心地がよほどよかったのか、日曜日の昼を過ぎてもなかなか帰る素振りを見せず…

三人共、高宮家を出たのは陽が沈み始めた夕方頃となってしまった。


特に日本に初めて来た上に、帰っても一人暮らしとなるリリィはまるで子供のように涼羽や羽月と一緒にいたいと駄々をこねたりしてしまっていたのだが…

それを見かねた涼羽が『休日なら、遊びに来てもいいですよ』と一言、可愛らしい声にすると、リリィはそれまで駄々をこねていたのが嘘のように嬉しそうな笑顔を浮かべ、次の休日を今か今かと楽しみにしながら、高宮家を後にした。


加えて、連絡先を交換したこともあり、涼羽のSNSアプリにはリリィからの連絡も頻繁に来るようになり…

寂しがりやのリリィがとにかく涼羽と関わりたくて、他愛もない話を吹っ掛けてくるようになったのだが、涼羽はそれを嫌な顔一つ見せることなく…

むしろ甘えてくる子供のようで可愛いと、その母性本能をくすぐらされながら対応している。


日々湯水のように湧いてくる、幸介の会社や誠一の会社から来る涼羽への個別依頼も、涼羽はその手際の良さと非常に高い効率で瞬く間に終わらせており…

日常も決して無理のない生活を送っている。


リリィ達が宿泊した休日から数日が経ち、この日の朝はいつものように涼羽は自身の城となるキッチンで、家族全員の朝食と、昼食となる弁当を作っている。

妹の羽月がそれを手伝うのもすっかり定着し、兄妹とても仲睦まじく料理に勤しんでいる。


「お兄ちゃん!お皿用意できたよ!」

「ありがとう、羽月。順番に盛り付けていくから、できたお皿からリビングに持って行ってくれる?」

「うん!」

「ふふ…羽月はほんとにいい子だね、ありがとう」

「えへへ…お兄ちゃんに褒められちゃった♡」


ここしばらく、兄である涼羽と一緒にキッチンに立って料理をすることも多くなり…

羽月の手際もそれなりによくなっている。

まだ包丁や火を使う工程はさせてもらえていないものの、それ以外の手さえあればできる工程はもう当たり前のように任せてもらっている。


いつものように、もはやプロの料理人が見ても驚く程の手際の良さで次々と朝食の準備を進め、それと並行して昼食の弁当を詰めていく涼羽。

妹の羽月がちゃんと手伝ってくれていることもあり、一人でやっていた頃よりもさらに時間の短縮ができている。


その流れで涼羽はこの日の夕食の仕込みも進めていき、帰ってきたらすぐに家族揃って夕食が食べられるようにしていく。


「ふわあ……おはよう、涼羽、羽月」


そこに、今は誠一の会社との協力体制がある為、日々とんでもない程の量の業務と戦い続けている父、翔羽がまだ寝ぼけ眼のまま、キッチンに姿を現す。

今年で四十四歳になる、一般的には壮年の域に入る年齢なのだが、その容姿は未だに二十台半ば~後半で通る程に若々しく、しかも非常に整っており…

子持ちの既婚者で、しかも超が付く程の子煩悩であるにも関わらず、社内はもちろん取引先でも女性から非常に高い人気を、本人は無自覚ながら誇っている。


「あ!おはよう!お父さん!」

「おはよう、お父さん」


そんな父、翔羽に羽月も涼羽も笑顔で挨拶を返す。

道を歩けば、十人中十人が認める極上の美少女な容姿の二人が、天使のような笑顔で朝の挨拶を返してくれるのがとても嬉しくて…


「ああ~もう!!お前達はなんでこんなに可愛いんだ全く!!」


目に入れても痛くないと豪語できる程に溺愛している涼羽と羽月を二人共その腕の中に抱きしめてしまう。


「!も、もお…お父さんったら…」

「えへへ~♡お父さんがぎゅ~ってしてくれる~♡」


今は亡き妻、水月の面影を強く残している涼羽と羽月。

特に涼羽は、翔羽曰く水月と瓜二つと言っても過言ではない程に似ている。

そんな子供達を溺愛して抱きしめるのは、翔羽からすれば当然であり…

家にいる時は当たり前のようにこうして抱きしめてくる。


のだが、その極上の童顔な美少女然とした容姿とは裏腹に根っからの長男気質で、甘えるのが苦手な涼羽は、自分がもう今年十八歳になる高校三年生の男だと言う意識が強いこともあり、父のこうした愛情表現にはついつい、このようなツンツンとした反応を返してしまう。

逆に、その幼さの色濃い容姿にマッチして甘えるのが好きな羽月は、父のこうした愛情表現が素直に嬉しくて、無邪気に喜んでしまう。


「ああ~…涼羽も羽月もなんて可愛いんだ…こんな天使のような子供達の父親になれて、俺は本当に幸せだ~…」


自分の抱擁を素直に喜んでくれる羽月も、ツンツンした反応を見せる涼羽も食べてしまいたくなる程に可愛らしく…

翔羽はますます二人を抱きしめ、思う存分に可愛がろうとしてしまう。


子供達との触れ合いが、翔羽にとっては文字通りの力の源となっており…

こうしているだけで、実年齢をまるで感じさせないとても若々しいイケメンお父さんに、もっとさせてもらえるような気になってしまう。


「あ~、幸せだ~…」

「も、もういいでしょ?は、離して…」

「!そ、そんな…涼羽は、涼羽は俺のことが嫌いなのか…」

「!な、なんでそうなるの!?嫌いになんかならないってば!」

「じゃあ、お父さんのこと、好きなのか?」

「!そ、そりゃあ、す……好き……だよ?」


さすがに高校三年生にもなって、息子である自分が父に好きと言うのは恥ずかしいのか、涼羽はその美少女顔を恥じらいに染めて、視線を逸らすように俯いたまま…

力のない儚げな声で、好きと言う言葉を声にする。


「………………」

「?…お、お父さん?…」

「…………涼羽」

「?な、なあに?」

「お父さんは、涼羽のことがもうどうしようもないくらい、大好きで大好きでたまらないからな」

「!だ、だからそんなこと言わないでってば…」

「いいや、いくらでも言ってやる。なんだったらお父さん、冗談抜きで涼羽とデートしたいまであるんだからな」

「!だから俺、男だってば!」

「そんなのは関係ない!涼羽があまりにも可愛すぎるから、お父さん涼羽とデートしたくてたまらないんだ!」

「!お父さん!もうそんなこと言わないで!」


自分の腕の中で、恥じらいながらも好きだと言ってくれた涼羽の姿が、今は亡き妻、水月のかつての姿に重なったのか…

平日の朝、しかも起きたばかりだと言うのに、翔羽は涼羽のことをめっちゃくちゃに可愛がりたくてどうしようもなくなってしまっている。


しかも、父である自分の発言に悉く恥じらい、ツンツンとした反応を返してくる涼羽が可愛すぎて可愛すぎてどうしようもなくなり…

実の息子であるにも関わらず、涼羽とデートをしたくてたまらないと、真っすぐに涼羽に向けて言葉にしてしまう。


「お父さん!俺まだご飯の準備してるから!も、もう離して!」

「嫌だ!涼羽がお父さんとデートしてくれるって言うまで、お父さん涼羽のことを離してあげられないな!」

「!そ、そんなの……」

「お願いだ!涼羽!お父さんが大好きなお母さんに瓜二つと言ってもいい程そっくりな涼羽とデートできたら、お父さんとっても幸せになれるんだ!」

「!で、でも俺、男……」

「息子でもいい!男でもいい!涼羽!お父さん涼羽とデートできたら、間違いなく幸せになれるんだ!だから頼む!涼羽!」


血のつながった実の息子にデートをおねだりすると言う、どう見ても頭のネジが外れた変態のような行為をとても真剣な表情でしてしまっている翔羽。

翔羽のファンとなっている、会社や取引先の女性達が今の翔羽を見たら、間違いなくドン引きしてしまうことだろう。


「…ず、ずるいよお父さん…そんな…そんな言い方されたら…」

「!涼羽!?」

「俺…俺…嫌って言えなくなっちゃうよ…」

「い、いいのか涼羽!?お父さんとデート、してくれるのか!?」


人の喜びを自身の喜びとする性格の涼羽が、このような言い方をされて無下に断ることなどできなくなってしまい…

日頃から自分と羽月を育てる為に、一生懸命仕事を頑張ってくれている父、翔羽の為ならと、その抵抗も弱弱しくなってしまっている。




「…お、お父さんが…そ、それで喜んでくれるなら…い、いいよ…」




とても恥ずかしいと言うことがすぐに分かる、真っ赤に染まったその美少女顔。

その羞恥に耐え、父の為にと己を捨てる覚悟を決める、涼羽の言葉。




「涼羽おおおおおおおおお!!お父さん、お父さんめっちゃくちゃ嬉しいぞおおおおおおおおお!!!!」




涼羽が自分のおねだりと聞いてくれたのがよほど嬉しかったのか…

翔羽は天にも昇りそうな心地で、満面の笑顔を浮かべて盛大に喜んでしまう。


「うう……」

「…お兄ちゃん」

「?な、なあに?羽月?」

「お父さんとデートするんだったら、わたしともデートするよね?」

「!?な、なんで!?」

「だあめ♡お兄ちゃんはわたしだけのお兄ちゃんなんだから♡だからわたしとデートするのは当然なの♡」

「え、で、でも…」

「わたし、お兄ちゃんとデートできたら物凄く幸せになれるもん♡」

「!そ、そんな言い方、ず、ずるいよ……」


結局涼羽は、父、翔羽だけでなく妹、羽月にもデートを強要されることとなり…

この日は朝からとても疲れた表情を浮かべてしまうのであった。

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お兄ちゃんがお母さんで、妹が甘えん坊なお話 ただのものかき @tadanomonokaki

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