第12話:3日目の夜

 夕方家に戻ってくると、伯父さんに「水晶はあったか?」と訊かれた。今朝の騒動を知っているはずなのに、それについては何も訊いてこない伯父は、やはりあのおばあさんの息子だ。


「いや、この辺は少ないですね。花崗岩は花崗岩なんですが、ほとんど黒雲母でできてるらしくて」

 そう言いながら、大竹は小さなケースの中から黒い六角形の石を取りだした。


「ほう、こいつは何です?」

「黒雲母の結晶です。後は小さな石英の粒が見つかったくらいで、水晶と呼べるほど整った石は出てきませんでした」

 伯父さん夫婦は分かっているんだかいないんだか、その黒雲母を掌に載せて、「水晶が出たらペンダントにでもするのにねぇ」と残念そうに呟いた。


「それで智一、楽しかったかい?」

 おばあちゃんが黒雲母をゆっくり見ながら、設楽に笑顔を向けた。

「うん!とっても楽しかった!それで、その黒雲母はばあちゃんにプレゼント。この辺じゃ黒雲母は別に珍しい物じゃないけど、こんだけ大きいのは探さないと出ないよ。お弁当のお礼!」

「へぇ、そうかい。ありがとうね、智一」

 にっこり笑う智一にお礼を言って、おばあちゃんはその黒雲母を仏壇に供え、リンを鳴らした。


「それでさっき浩司おじさんとこに寄って、明日山に連れてってもらうことにしたんだ。朝5時には迎えに来るって言うから、朝ご飯とお弁当、お願いしても良い?」

「おい智一、こんな時間に急に言う奴があるか」

 伯父さんに咎められると、設楽と大竹は2人で「すいません」と小さくなって謝った。


「良いよ良いよ。おにぎりとお香こと卵焼きくらいで良いかい?」

「あらお義母さん、冷蔵庫にソーセージが入ってませんでしたっけ?」

「ああ、じゃあそれでこしらえようね。それじゃあ明日は早いから、今日は早くに寝なさいよ」

「はーい」

「お世話になります」


 2人は素直に返事をして、今日こそは満ち足りた気持ちでゆっくり寝れる―――と思ったけどもちろんそんな筈はなく、「えっちは卒業までしないよ!それは了解だよ!でも先生こないだは触ってくれようとしてたじゃん!触るとこまではOKなんでしょ!?」と鼻息を荒くした設楽に「ふざけんなバカ!明日早いんだからとっとと寝やがれ!」と大竹が激しく抵抗し、結局2人が眠ったのは予定した10時よりも1時間以上遅い時間になったのだけれども……。

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