第3話:初日の夜

 日付が変わってお開きになっても、酔っぱらった親戚の何人かはそのまま座敷に寝っ転がったままだった。


「ごめんなさいねぇ、賑やかで。驚いちゃったでしょ?」

 おばあちゃんは恐縮しながら大竹と智一を奥の間に連れて行った。そこにはいつの間にか布団が延べてあり、2人は慌てて「明日からは自分達のことは自分達でやるから」と断ってから、礼を言った。


 2人きりになると、妙に気まずかった。キャンプで一緒に寝泊まりすることはあるが、テントの中でシュラフで寝るのと、寝間着に着替えて布団を並べて寝るのでは訳が違う。


「じゃ、じゃあ着替えようか……」

 そう促してくる設楽が何かオッサンくさくて、大竹もぎこちなく「おう」と返事をし、何となく後ろを向いて着替え始めた。


「……先生、なんか新妻っぽい……」

「だから、誰が新妻だ!新妻ならもっと可愛いパジャマとか着るだろ!」

 大竹が寝間着代わりの甚平に袖を通すと、設楽が何とも言えない間抜けな顔で自分を見つめていた。


「……なんだよ」

「いや…、なんか……良いね、それ……」

「え?普通に甚平だけど……?」

「いや……なんか、新鮮……」


 ノンケの男が浴衣姿の彼女に欲情するのと全く同じ理屈で、設楽はごくりと喉を鳴らした。もちろん、大竹にその理屈が分かる筈もない。だが、なんだかすごく落ち着かない気持ちになって、ぎこちなく襟元を1つにまとめて握りしめた。


 え、なにコレ。

 なんで俺が新妻とか言われてんの……?

 なんで設楽があーゆー顔すんの?

 逆じゃね?


 そんな大竹の動揺を知ってか知らずか、設楽はにわかに鼻息を荒くして大竹のすぐ脇までにじり寄ってきた。


「ね、センセ。キスしても、良い?」

「……やだ」

「キスだけ!」

「なんか、それだけじゃ済まないって顔してるし」

「キスだけ!」

「……お前なぁ、おばあさんと1つ屋根の下なんだから、少し考えろよ」

「キスだけならしても良いって、先生言ったじゃん!」


 必死な顔で駄々をこねる設楽の顔が可愛くて、大竹が小さく「仕方ねぇな」と呟くと、それを合図に設楽が大竹を抱きしめて唇を合わせてきた。


 甚平の広い袖口から設楽が手を入れてきて、素肌の脇の下に手を這わされる。驚いた大竹の体がびくりと震えると、設楽は興奮したように唇の角度を変えて、深く舌を絡めてきた。


 大竹も設楽の背中に手を回し、寝間着代わりのTシャツを、しわくちゃになるまで掻きまぜた。

 キスだけで体中がどうしようもないほど興奮して、いても立ってもいられないように体をまさぐり合う。


 だが、設楽の汗ばんだ掌が甚平の袷から胸へと差し込まれると、さすがに大竹ははっとしてその手を掴んだ。


「こ…れ以上は、やばいだろ……?」

「先生、なんか俺止まんねーかも……」

「バカ!おばあさんすぐ隣で寝てんだろ!他の親戚の方だって……んっ、ばかよせ……!」


 大竹のうるさい口につき合っていられるかとばかりに、設楽は再び唇を重ねてきた。

 向かい合って抱き合うと、設楽のソコがガチガチに興奮していて、それは当然自分のソコもそうなっていることは分かりきっていて、キスをしながらこすりつけ合うと、もう本当にこれだけで済むはずが無くて、いやむしろ自分の理性に自信が持てなくて、大竹は思わず設楽を突き放して立ち上がった。


「ってー!先生っ!」


 抗議の色合いを込めて睨みつけられたが、知ったことではない。大きく肩で息をしながら、大竹は「便所行ってくる!」と設楽を残してトイレに行き、溜まった物を解放してやってから縁側にずるずるとしゃがみ込んだ。


「やべぇ……。このままどうなっちまうんだろう……。頼むから俺の理性、ちゃんと保ってくれよ……?」


 これから先の展開を考えると、全く自信は持てないのだけれど……。

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