チマチョゴリの花嫁

@kirakirabosi

一話 あなたは運命を信じますか?

  あなたは、運命を信じますか?

出会うべきして出会った人と、避けられない運命を受け入れることが出来ますか?

ここには、ある悲しい出会いをし、激しくも勇敢に闘いながらも、

心から愛し抜いた壮絶な物語があります。

あなたの側に居る人が運命の人なのかどうか?

出会わなければ良かった相手なのか?どうか?一緒に考えてみませんか?


 淡紫色した可愛い小鳥を肩にヒョコンと乗せて、いつもの駄菓子屋さんに

大好きなアイスを買いに出掛けた。

「こんにちは。またアイス買いに来たよ。」

「あら。また小鳥を肩に乗せてるのね。いつ見ても賢い鳥だね。逃げないんだから。」

駄菓子屋のおばちゃんが、笑顔で駆け寄って小鳥に話しかけて来る。

「しかし珍しい色してるね。家で産まれたんだって?本当に素敵だね。」

少し自慢気に小鳥に話しかける。

「そうよね。チーコは自分で巣箱から出てくるし、帰る時も自分で巣箱まで戻るし、本当に賢いよね。人間が話してる言葉もちゃんと理解してるもんね。」

お気に入りのアイスを手に取りおばちゃんにお金を渡した。

「わっ凄い。それ本物の鳥?」

見知らぬ男の子がいきなり二人の会話に入り込んで来た。

「そうよ。」

「何故飛んで逃げないの?俺も欲しいその鳥。」

何だかムッとする子。馴れ馴れしく話しかけないでよね。そう思いながら、持ってた釣り竿に目をやる。

「釣りするんだ。何処で釣るの?」

と話を変えてみた。

この子には、何だか教えたく無かったのだ。

「近くの川だよ。よく釣れるんだよ。一緒に来る?」

「えっ、行かないよ。まあ頑張って。」

そう言って帰ろうとしたけど、

「なあ、何で飛んで逃げないんだよ。教えてくれよ。」

興味津々で突っ込んで来る。色んな角度から小鳥を覗き込んで、離れようとしない。

根負けしてしまった。

「羽がね少し先を切ってあるんだ。それに日常これが普通だから逃げたりはしないの。言うこともよく聞くのよ。」

「え~。俺もその鳥欲しい。良いな~。俺の肩にも乗せて欲しいよ。」

なんて厚かましい人だろう。初めて会うのに、人見知りとかしない人なのね?と

半ば馬鹿にした様な気持が湧いた。単純な人。

 数人の男の子達と共に自転車で餌を買いにこの店に立ち寄ったみたいだった。

たったそれだけの最初の出会いを、あなたは、10年以上も覚えていたね。

一目惚れって、言ってたよね。

不思議な少女に出会って一目で恋に落ちてしまったと。

お互い名前も、何もしらなかったのに。

それが運命の出会いになるとは、気付きもしないで出会ってしまったんだね。


あの時、小鳥を肩に乗せていなければ、不思議な子だと、興味を抱かなかったのだろうか?

チーコが引き合わせた運命だったのだろうか?

何のために?あの頃は何も不幸だなんて思わずに日々を過ごして居たのに。

あなたに会わなければ、こんなにも、心が傷まなかったのに。


あの日、あの数分の時間さえ無ければ。

私たちは今幸せだったのだろうか?


二人の記憶に残らない程度の出会いを私たちは全く気付かずに、再び出会ってしまった。


「はじめまして。君、テレビのコマーシャルに出てる子に似てるよね。」

いきなり声を掛けられて振り返ると、細い顔をした男の子がにんまり笑って見てる。

初めて見る顔。一体誰?

「ほら笑ってみて。絶対似てるって。」

だから、誰なのよ。いきなり何の話をしてるのか?全くわからない。

「一年の頃から見てたけど、やっぱり似てるよ。凄い噂になぅてるから、結構有名人だよね。俺のこと知ってる?」

入学式の当日、クラスに大量の男の子がむらがってたけど。またその話。

有名歌手の歌が流れる中、いきなりはつらつな笑顔にエクボが出てたコマーシャルの子に、似てるって言われてきたけど。

いい思いなんてした事が無い。

柄の悪い男の子達に告白されて断ったら、ぶりっ子だと苛められるし、その話には

触れてほしく無いのよね。

けど、そのあどけない笑顔見せられると、文句言えない。

「ねー。笑ってよ。お願い。」

しつこそうだから、笑ってみる。

「お~。やっぱり似てる。可愛いな。俺の名前は翔太。よろしくな。」

名前を名乗り返さなくても、しっかり名前知ってた。

抜かりない奴。第二印象も、何だかぱっとしない、明るい笑顔だけが心に残った人だった。

それからというもの、気がつけばいつも彼は横にいて、私のことを見てた。

誕生日会に呼ばれなかったことも、怒っていたし、黒板の字が光の反射で見えなかった時も、彼が先生に言って見えるようにしてくれた。

「ありがとう。」

と一言お礼を言うと、照れ笑いをしながら、嬉しそうにしてた。

あなたの人生の中の、私との出会いはこの時点では、初恋という淡いもので何時も鮮明に覚えて居たね。

あの頃のお前は何時も元気で、笑顔の耐えない明るい子だった。

あなたは、そう言って泣いたことがあったよね。

多くの失恋をして、痩せて細くなってよく泣くようになってしまった私と出会った頃のあなたは。


私のために泣いてくれる唯一の人。

私の中では、それが一番大きかったんだよ。

家の中では幼い頃から、親の夫婦喧嘩が耐えなかった。

家庭内暴力は、日常的で、試験があると、ブレーカーまで落とされて勉強が出来ず

懐中電灯を片手に必死で頑張った。

ある日は、夫婦喧嘩を止めるのに、いきなり父親にほっぺた殴られて鼓膜が破けて

朝の朝礼の時、担任に呼びだされ、保健室で一日中待機。

耳から血が出てるのと、ほっぺたに手形が残ってると聞かされて驚いた。

鏡すら見る暇無かったから、そのまま登校したのが悪かった。

病院へ行くように薦められたけど、父親に殴られたなんて言えないから、行かないと

先生を困らせて、先生との約束で一週間保健室に消毒のため通った。


きらきらした学園生活が、私にとっては、逃げ場のない孤独な部屋と同じに見えてたあの頃、彼だけが、無邪気な笑顔を私に向けてくれていたように思った。

彼はきっと、何の悩みも無いのだろうなとずっと思い込んでいたのだ。


そうあなたに、在日韓国人の外国人手帳を見せられるまでは。

あなたは、無邪気な笑顔の下にその当時、大きな悩みを抱えていたね。

親から、中学になると渡されるこの手帳の話を聞かされて、誰にも言うんじゃないぞ。という親の言葉に、大きな重い荷物を背負わされたんだよね。

そして、揺るぎない祖国への誇りを。


あなたは何時も言ってた。

食べ物も、勉強も全て日本で生まれ育って、何一つ韓国の事は知らない。

これでも韓国人なのか?って。

日本人でも無い。ただ、この体に流れる血は、大好きな父親と母親から貰ったもので

確実に韓国人の血が流れているんだって。

大好きな人と結ばれることも無く、お見合いして結婚するしか俺には無いって。

親も捨てられない。

愛する人も捨てることも出来ない。

だから、本気で恋愛と向き合えないんだって。


私が好きになってしまった時にはあの無邪気な笑顔は消えて、自信のない人生を諦めかけてたあなたが居た。

そんなあなたを、見捨てることが出来なくて、

私は、

「私があなたの人生を変えます。」

と口走ってしまってた。それが、私達の物語の始まりだった。

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