第12話 何故かあたしが悪者に

 あたしは思い切ってリーダー格の男子生徒に問いかけた。


「あなたがバスケ部の親分でいいのかしら。ねえ、どうして転校して来て間もない西園寺君が疑われてるの?」

「おやぶ……三年の土方だけども。動機は十分だし、昨日あちこち出入りしてる姿が目撃されてるからだよ。授業中にも出歩いていたことからして限りなく疑わしいんだ。ところで部外者は黙っててくれないかな」


 あたしに向ける眼差しは幾分やわらかかったけど、言外におまえはお呼びじゃねぇって態度だった。それを受け流してあたしは考える。

 ふむ。そういえば昨日の午前中はあたしのことを嗅ぎまわって校内をうろついていたし、午後の調理実習では指切って保健室に行ってたな。

 となると状況的には実行可能なのか。でもなぁ。うーん、やっぱり西園寺は違うと思うよ!

 あたしが思案にふけっている間に、リーダー格の土方が西園寺に詰め寄って勝手に話を進めだしていた。


「なあ、お前、東に恨みがあるんだろ? 洗い出した中でもとくにお前が疑わしいんだよ。な、池谷」

「はい」


 名前を呼ばれた顔見知りの下っ端がうなずいて、ここぞとばかりに一気にまくしたてた。


「オレたち小学校時代に同じクラスだった期間があったけど、その当時、東と西園寺はお世辞にも仲が良いとは言えない間柄でした。西園寺は東たちのグループから手酷くからかわれてたんです。そんな西園寺が戻ってきた矢先に起きた出来事。ふつうに考えても一番怪しいでしょう!? そして、極めつけは東の態度。東はどうも犯人に心当たりがあるみたいで、『これは当然の報い』と事を大きくすることを拒んだんです。先生たちにも、自分達の悪ふざけが招いた結果だと申告したのを聞いて、オレは西園寺が復讐したに違いないとピンときて」


 言い終えてドヤ顔の下っ端。

 そこで教室内がざわめいた。遠巻きに見ていたクラスメイトたちがひそひそと囁きあう。

 もしかして本当に西園寺君がやったんじゃ……って、やーな会話が漏れてくる。 ちょっと西園寺、このままじゃあ本当にあんたが犯人にされちゃうよ!?


「ほら、なにか言い返さないと」


 あたしが西園寺の背中を軽くたたいて促すと、西園寺は諦念の笑みを浮かべた。


「鈴木さん、もういいよ。彼らの中で犯人は、僕と決まっているようだからね。すっかり固まっているものをなんとかしようとするのは、石の壁を押すようなものだ。何を言ったって無駄じゃないかな」


 おいおい。初っ端から諦めてどうすんだよ。


「でも、西園寺君はやってないんでしょ!?」

「もちろん」

「じゃあ私が代わりに言う」


 あたしはくるりと向きを変えて、顔見知りの下っ端に近づいた。


「池田君だったかしら」

「池谷だよ。三年間も同じクラスだったのに……」

「池谷君、それでも西園寺君の仕業ではないと思うわ。この私が違うんじゃないかと言ってるの。この、私が。意味わかる? 西園寺君はね、私にすら優しくしてくれたのよ」


 睨みをきかせながら言う。

 池谷はあたしの気迫に呑まれて気後れしたようだが、彼もまた後には退けない状況なのだろう。

 ヘラヘラとしたいやーな笑みを浮かべながら言った。


「鈴木さんはさ、後ろめたいことがあるから、彼を庇ってるんじゃない?」

「なっ……」


 あたしは絶句した。

 固まったあたしを見て調子を取り戻した池谷がさらに言い募る。


「あのさあ、女の子は許す、ってべつに珍しくないことだと思うよ。それが可愛くなってれば特にね」

「…………」

「東のやつも同じだと思うよ。当時の後ろめたさがあるゆえに犯人を知ってて庇ってる。だから犯人は――」

「ちがうよ! 彼は東君に対してそんなことをする人じゃないっ!!」


 思わず強い口調で遮ってしまってみんな驚いているけど、構っている余裕なんてない。

 あたしは力なく笑って言った。


「西園寺君――西園寺はね、たしかに復讐するために意気揚々とこの学校に乗り込んできたよ。“鈴木静”って人物に復讐をね。でも諦めて、『今度は愛に生きる!』と宣言したんだ。そんな愚直なほどに真っ直ぐなやつなんだよ。今だって何故か野球児を目指すことになっているし」


 一旦呼吸を整えてさらに続ける。 


「彼は歯の浮くような台詞ばかりでその度にドン引きしまくってるけど、あれは演技なんかじゃない真摯さだった。西園寺はね、ヒガシのことなんてこれっぽっちも眼中にないよ。あたしにはそれがわかるんだ。だって昨日のあたしの鳥肌は本物だった。昨日は脇目もふらずにあたしの方ばかり見てきて本当にキモかった。キモかったんだよ。これがブラフというなら何を信じたらいいのかわからないくらいに。だからあたしは――私は、西園寺君はやっていないって信じてるわ!!」


 あたしが言い終えるとあたりはシーンと静まり返った。

 どこからか「そこまで言うのかよ……」という声がぼそりと聞こえてきたけど、そこまで言うよ。だってあたしは西園寺のことを信じているから!!!

 誰がなんと言おうとあたしだけは味方でいてあげるから安心してね、と西園寺の方に目をやると、西園寺はガックリと肩を落としてうなだれておった。

 先ほど土方に襟首をつかまれたから息苦しくなったに違いない。土方め!!


「なんて酷い人なの!」

「そのセリフ、そっくりそのまま返す」


 抗議をいれたら速攻で言い返されてあたしはムカッときたが、周りを見やると何故かみんなうなずいていた。

 そしてクラスメイトのひとりから、「西園寺君が可哀想。鈴木さんはもう少しデリカシーというものを持った方がいいよ」と真顔で諭されてまった。


 えっ、なんなのこの流れ。納得できない!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

いじめっこですが復讐されそうなので変装したら好かれてしまった とりのはね @momotose

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ