宣戦布告 4

 茂みから勢い良く飛び出すと、一番近くのマンゴラゴラへと駆け寄り引っこ抜く。

 土に埋まっていたマンドラゴラの本体。その見た目を比喩するなら鬼の赤ん坊。全体象は不気味なキノコの別に青いツノが二本生えており、顔と胴体は赤で統一、人種のような手足もある。全体のデカさとしては人間の二歳児だが重さは見た目より遥かに軽い。おそらくラノベ三つ分くらいの重さだ。

 こいつが動物園の檻の中にいたのならキモいの一言で終わるが、今はこいつのキモさなど眼中にもない。

 殺せるか? 殺せないか? 今はそこだけしか興味がない。

 短パンのポケットから折りたたみナイフを取り出す。左手に命。右手に凶器。

 じわりじわりと対象の口へと近づけていく鋭利な刃先。最初はゆっくりでも弱点である口へと進んでいったが、先端が対象に触れるとピタリと止まる。

 「........お前、どうして温いんだよ」

 命を掴んだ左手には生命としての体温があった。さらに強く左手に意識をやると脈打つ心臓の鼓動までしっかりとあった。

 お前の命を掌握している僕が、気絶して動かないお前に心を掌握されている現状。

 命というのはその存在だけでこれほどまでに強いものなのか。細切れの豚肉、鉄板の上焼かれたビフテキ、余りにも殺生という苦痛から隔離された日本。そこでのうのうと生きてきた僕の罪。実感せざる得ない、僕は僕だけの命じゃないと。強い命は弱い命の上に成り立ているんだと。 

 「................頼むから死んでくれ」

 強まる眼力に震える刃。あと三センチ刃先を落とせば奴は確実に即死。分かってはいるが凶器を持つその右手に力が入らない。寒くもないのに悪寒が身体を侵し、拒絶という二文字が心に深く巣食ってやがる。頼む。あと三センチ、あと三センチだけ力を。誰でもいい。悪魔でも神様でも。

 自身との苦闘。神経がすり減り、もう限界だと諦めかける瞬間........声がする。

 「コウタ君。あなたはここで死ぬ人じゃないんだよ」

 ふと顔を上げれば血みどろ両手に、天使の微笑み。ティエルの透き通った碧の瞳が座り込む僕の目線と同じ高さから柔らかく注がれていた。

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奴隷から脱走した少女とネトゲ廃人予備軍だった少年の異世界での現実 もちもちおもち @motimotimotitmotiomoti

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