宣戦布告 3
「コウタ君、ここからは油断は大いなる敵だよ」
隣を歩くティエルは、考え老けていた僕の顔を首を傾げ見ていた。
「逆に油断なんてしようと思ってもできないよ」
山に入ってから気を緩めた時間など一度もない。それが頂上前ともなればなおさらだ。
既にここから頂上を見れば、遠くもない距離で子犬サイズのキノコがウニョウニョと蠢いている。その傘部分の色は紫に赤い斑点模様が印象的で、いかにもヤバイ薬の材料という感じがプンプンしてた。
「あれってどうやって攻撃してくるんだっけ? 昨日土から這い出て襲ってくるとは言ってたけど」
頂上のキノコ勢を見つめ僕は弱気にささやいた。
「魔法を使ってかな。昨日言ってなかったけ?」
「言ってない!」
「えっと........聞かれなかったから」
「確かにマンドラゴラの攻撃方法については聞き忘れてたけど、まさか魔法使いかよ」
「コウタ君、魔法はまず発動条件として『魔法詠唱』で時間を必要となるから、焦らず対処できれば大抵どうにかなるよ。ちなみに私は『魔法適正』がなくて全く魔法使えないよ」
「........生きて帰ろうな」
「もちろん」
頂上入口へと到着。二人で見つからないように近くの茂みにしゃがんで隠れた。
ここから見る限り五十体はいる。至近距離で見るマンドラゴラの群勢は失禁もん。カラスの群れに囲まれるなんて次元を優に超える危険感。やはり僕みたいな弱者はRPGの初期定番、スライム様が妥当なんじゃないだろうか?
「昨日の作戦だとバレないように一匹ずつ倒してく算段だけど、今の状況見て僕は悟ったよ。その作戦は危険すぎる」
こそっとマンドラゴラにバレないようティエルに囁く。
「なら、プランBなんてどう?」
「プランB?」
そんなの全く聞いていない。
「そう、殺られる前に殺り尽くせってことだよ」
「........僕が求めてる答えと違うよ」
ソワソワ感が止まらない僕に対し、ティエルは冷静にマンドラゴラの群れだけを見つめている。
「コウタ君、耳栓四つ出して」
ティエルに持たされた耳栓を四つ短パンのポケットから取り出す。全くもって用途が不明なのだがなにに使うのだろう? 互いに両耳へ耳栓をしっかりと装着した。
続いて、ティエルは僕に一度微笑むを送ると、自分の背負うリュックの中から僕が気にかけていた棒状の物体を取り出し、小石でも投げる感覚でマンドラゴラの群勢にに投げつけた。
ギィーーーーーーーーン。
投げられたそれは地面に着くやいなや、僕らに襲いかかる凄まじい爆音に変化。耳栓をしていなきゃ鼓膜は絶対ぶっ飛んでいたと思う。
その証拠に鳴り止んだ今だって身体の表面がヒリヒリと日焼けのように痛む。
ティエルは両耳の耳栓をワンピースのポケットにしまい、僕の両耳の耳栓も優しく抜きポケットにしまうと、ささやかに笑み浮かべる。
「コウタ君、奴らが気絶してるうちに皆殺しにするよ」
待て待て待て待て待て。意味が分からないよ!
「まずなにを投げたの !?」
血がすべて頭に集まるような感覚が僕を襲ってる。
「えっと、落ち着いて。『ソニックボム』だよ。話はあとでするから今はマンドラゴラを全て殺すことだけ考えて! 奴らの気絶状態が解けたらいろいろ厄介だから」
冷静沈着。ティエルのその姿がなにより救い。
その姿を拝むように僕は勇気を宿らせようと必死に心に念じた。
『殺らなきゃ殺られる』『殺らなきゃ殺られる』『殺らなきゃ殺られる』........と。
深呼吸を大きく一回すると、僕はティエルの目を見つめる。
「どうやって殺せばいい?」
「奴らの弱点は口。引っこ抜いてからナイフでさせば即死する」
それを平常運転で言うと、ティエルは茂みから飛び出し、マンドラゴラを抜いては殺し、抜いては殺し、抜いては殺し........ナイフと両腕をマンゴラゴラの血で真っ赤に染めながら鬼のようだ。
僕はその光景に思わず吐いた。さっきまでの勇気? 殺気? そんなもん等に失せ尽くしている。ただ生存本能ってやつだろうか? そいつが『生きろ、生きろ』と脳に命令を与えているのが分かる、背中を押しているのが分かる。
今までなかった。こんなに生きたいと思った瞬間は今までなかった。
なんで生きてるのか? こんなに自分に問いただしたこともなかった。
「........殺ってやる」生きて生きて生き尽くしてやる。
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